2016年てるてる大賞受賞作品
この作品、「クラウドファンディング」というて、インターネットで制作資金を調達するやり方で、2,000万円を目標額としたのに対し、全国から3,374人3,912万1,920円を集めたそうな。
知っとったら、わたしも支援したかった!
公開されてから満員御礼続きで、上映館がどんどん増加しました。
こうの史代さんの原作、こうのさんの作品は、「夕凪の街、桜の国」の出会い以来、大ファンです。彼女の作品はけっこうユニークですが、主人公のもつほんわか感は共通してますね。
この作品は、広島市の江波に生まれた浦野すずという絵を描くことが大好きな少女が戦争へ向かっていく時代のなか、呉市の北條周作のもとに嫁ぎ、生活していく物語です。
普通の人たちが戦争に巻き込まれ、家族を失い、自らも傷つき、それでも生きていかなくてはならない・・・。
それをこうの史代さんは、やさしくていねいに描いていきます。それだけでも歴史の財産になるような庶民の生活を。この原作を見事にアニメ化、広島の原爆で消滅し現在平和公園となっている今はなき街並みが甦りました。
広島の海辺の村に生まれ育った浦野すず(声:のん)さん。
すずさんはいつもぼおっとして、夢と現実がわからんような、絵が大好きな女の子。
おばあちゃんのお家で「座敷わらし」の女の子に出会いますが、その女の子は後に白木りんとして、すずさんと出会うことになります。
そんなすずさんが18歳の時、縁談話が。見初められたようだが、すずさんに心当たりがない。
ぼおっとしとる間に話はとんとん拍子に進んでしまい、すずさんは流れるままに広島から軍港の街・呉市の北條家に嫁ぐことに。
夫の周作さんは4つ年上で、海軍に努めている。すずさんは周作さんに、どこかで会ったことがあるのか?と訊ねますが、昔漫画に描いた「人さらい」のお話に出てきた男の子だったのです。
黄色いタンポポから白いタンポポへ。
新婚生活、でも時代は太平洋戦争のまっただ中。配給物資が滞るようになり、戦局の厳しさがすずさんたちの生活にも色濃く反映していきます。そんななかでもすずさんは生活の知恵と工夫を重ね、明るく生きていきます。
道に迷い、遊廓街に迷い込むと、そこにいる女性に道を訊いてもよくわからない。いい匂いがして、ここは「竜宮城か?」と勘違いする。
姪っ子のために、軍艦の絵を描いていたら、憲兵に捕まり間諜(スパイ)と疑われてしまう。
大空襲、空には戦闘機の大編成、高射砲の弾丸がまるで花火のように炸裂する。その光景を見ていて、いまここに絵筆があったらと、思ってしまう。
そして、空襲で街は破壊され、すずさんも・・・。
失ってしまったもの・・・。
そして、広島が・・・。
終戦の日、はじめてすずさんは号泣します。それでも、生きていかなくてはならない。
広島を訪れ、妹のすみさんと再会しますが・・・。
廃墟となった広島の駅ですずさんと周作さんは、孤児の女の子に出会います。原爆で母親を失い浮浪児となっていた幼女が母の面影をもつすずさんにすり寄り、ふたりはその女の子を受け入れるのです。
エンドロールの絵コンテがこころを打ちます。
戦争で奪われた女の子と絵を描いてきた右手。
主人公浦野すず→北條すずを演じた声優は、「のん」さん。すずさんにぴったりあって素晴らしかったですね。
映画の冒頭、流れる歌はココリンゴが歌う「悲しくてやりきれない」・・・あのフォーク・クルセイダーズの名曲だ。
多くの人たちに観ていただきたい作品ですね。
原作を読み返しましたが、遊郭の女性「白木りん」さんと北條(浦野)すずさんとの関係には別のものもありまして、エンディングのさらにあとの絵コンテにそれがかいま見えています。昨年公開された「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、そのことが付け加えられ、また趣きが異なった作品となりました。
そんなことも考えながら観ていると、本当に素晴らしい作品をありがとうございますですね。
呉の白いタンポポ見に行きたいな♪と、こっそり思っておりますよ。
「終戦の日上映会」に行ってきました。
こうの史代さんの原作の連載は、月の進行が連載と同じにしてあり、読者は戦争の時代の生活の変化を同じ時間軸で体験するという試みがあったそうな。
映画の上映のあと、片渕須直監督が登場してトークがありました。
この作品が公開されたのが、2016年11月のテアトル新宿、それからこれまで1日も欠かすことなく上映され続けて、1000日を超えているそうな。
この日が2019年8月15日、映画の昭和19年8月は、大切な砂糖が水没して闇市に出かけたすずさんが遊廓に迷い込み(竜宮城かと思ったそうな)、白木リンさんと出会うエピソードのあった頃。
戦局が悪化し、物資が不足して難儀していますが、1年前なのにまだ空襲もなく、なんとなくまだのんびりしていました。灯火管制が始まったのがこの頃のようです。
1年の間に空襲で愛する者を喪い、絵を描いていた右腕を失い、ふるさと広島には原爆が・・・。
想像できますか?
と、語る片渕監督。
10年前の8月15日のエピソードが、おばあちゃんのお家で墓参りをして、そうめんを食べて、スイカ🍉を食べて・・・平和な日常ですよね。
この作品が公開されたのが2016年の冬、昭和16年12月が真珠湾です。
続けられているこの1000何日がちょうど終戦の1年前だということです。来年の8月15日までが太平洋戦争と重なって行きます。
いま、作品に描ききれなかったエピソードなどを盛り込んだ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を制作中だと言う片渕監督は、ただつけ足すだけでなく、作品の雰囲気も変わったものになると語ってました。
改めて、この作品を世に送り出してくれたこうの史代さんと、片渕監督に頭がさがりますね☺️
素晴らしい作品でした。
