乳房再建は、切除された乳房をなるべく切除前の形に近づけるのが目標です。今では、シリコンインプラントや自家組織を用いた再建は保険診療でできますし、自費診療を使えば脂肪注入も可能で選択肢はとても多いです。しかし、乳がんと診断され、自分の体のことだけではなく、家族のこと、会社のこと、などさまざまな事を同時に考えて、決断していかなければならないという時期に、乳房再建についても考える必要が出てくるとなりますと、患者さんによっては大変混乱される事もあります。

 

もちろん、乳房再建は、患者さんが考えるべきことを増やして混乱させる事は意図しておらず、どちらかといえば、こんな事もできますよ、と伝える事で、患者さんの負担や辛さを取り除くためにあるのだと思います。治療のために乳房を切除しても、形は元の状態に近く作れるので、見た目の変化は心配いりませんよ、だから治療に専念してくださいね、と言ってあげられるというのが、本来の乳房再建の姿だと思うのです。

 

ただ、実際には選択肢が増えるが故に、悩みを増やす結果にもつながります。それは、再建に要する時間(ダウンタイム)の問題もありますが、さらに何よりも手術手技の不確実さというものも原因です。乳房再建手術に重要な事は、①確実に生着(定着)すること、②自然な形になる事、そして③合併症を最小限にする事、の三つです。この三つが確実に満たされれば、もちろん大きな満足を得られますが、一つでも欠けると、患者さんの側も、医師側も、本当にこの手術をするべきだったのだろうか、と何となくすっきりしない気持ちになるものです。現在においても、再建手術でこれを100%確実に達成できますとは言い切れませんから、余計に悩みが増えるのだと思うのです。

 

実際のところ、専門的に見ていくと、この三つは必ずしも両立しません。

インプラントでは、採取部の合併症はその性質上皆無ですので、体に完璧に馴染むインプラントがあれば無敵ですが、現代においてそのようなインプラントは実在しません。今使用可能なシリコンインプラントでは、移植部の違和感や感染症、インプラント露出、カプセル拘縮、BIA-ALCLなどの合併症が発生しえます。しかも長い時間で見ると、合併症の累積発生は時間が経つほど増えていくという特性がありますので定期検診が欠かせません。

一方、自家組織を用いた再建では、一度生着してしまえば、その後に合併症が増えていくという事はほぼありません。しかし、手術時に発生する合併症には、皮弁がそもそも生着しないという皮弁壊死から、慢性疼痛、ひきつれ、腹壁瘢痕ヘルニアなどがあり、その後の生活の質を大きく下げるようなものもあります。特に大きな合併症は採取部に関わるものがほとんどですが、移植組織の脂肪壊死による硬結や変形といった移植部の合併症もあります。

 

このように書きますと、恐ろしい事だらけで、乳房再建などしない方が良いと思うかもしれません。しかし、自家組織再建での合併症は、慢性疼痛を除けば、様々な工夫でかなり少なくすることが可能で、腹壁瘢痕ヘルニアが発生しやすい患者さんや、組織量や血流の問題で良い形に作るのが難しそうな患者さんも、術前検査で前もってかなり分かります。組織量と血流がマッチした自家組織再建では、少ない合併症で驚くほど綺麗な乳房が再建できることがあります。ですから診察に来ていただければ、自家組織再建に向いているかどうかを判断することは可能です。一方、インプラントの手術では、移植するインプラントの材質が決まっている以上、形や柔らかさについて術者ができる事が少なく、カプセル拘縮の発生も未解明な部分が多いので、インプラントをしっかりと筋肉あるいは筋膜で被覆する以外に、長期的な合併症の発生を減らす努力がそもそも難しいように思います。

どちらが優れているのかという議論は常にありますが、私個人としては、自家組織再建の方が、長期的にはメンテナンスフリーになる可能性が高いと言う点と、術者の工夫がしやすいという点でお勧めしやすいです。ただ、インプラント手術の手軽さも大きな魅力ではありますので、合併症発生の予測が難しい事を知った上で受けていただくならば、自家組織移植にない良さのある手術だと思います。

 

自分の家族になら、どちらの手術を勧めるだろうか、と考えることもあります。家族としての意見と、医師としての意見は分かれてしまうのかもしれません。本人の気持ちを尊重したいというのが、家族としての気持ちになりますが、それだけだと家族からは頼りないと怒られるのかもしれません。こんなに偉そうに書きながら、自分の家族の事となると決めるのはとても難しいことがよく分かります。すみません・・・。気を取り直して言いますと、医師として言えることとして、乳房再建を迷いなく選んでいただくためには、ダウインタイムの問題を除けば、①確実に生着(定着)すること、②自然な形になる事、そして③合併症を最小限にする事、の三つを高い確率で達成する事が鍵になると思います。そして困難が予想される場合は、やらないという選択肢も重要だと思います。次から、その3つを達成するためにどのような工夫をしているかをお話ししていきたいと思います。