乳房再建をやって良かったと思っていただけるためには、①確実に生着(定着)すること、②自然な形になる事、③採取部合併症を最小限にする事の三つが大事です。

 

まず一つ目の条件、自家組織再建、特に遊離皮弁による再建で、確実に生着するとはどういうことなのでしょうか?

 

自家組織による再建手術は、①移植部の血管整備②皮弁の挙上③血管吻合④皮弁縫い付け⑤術後管理の5つのフェーズに分けて考えることができます。多くの場合は③以降、つまり血管吻合をしてから血流がしっかり流れるかどうかということが、確実な生着の分岐点になります。もちろんそのためには、①と②のプロセスが最重要であることは言うまでもありませんが。遊離皮弁(自家組織再建)の生着率は、施設によって異なりますが、95%から99%と言われています。これが安全と言えるのかどうかといえば、議論が分かれるところです。

 

がんの治療では、進行度にもよりますが、5年生存率が98%の治療と言われれば、なかなか優れた治療法になりますし、ぜひ受けてみたい治療かもしれません。高血圧の薬を飲んで、98%で効果が出て心臓病のリスクが減ると言われれば、ぜひ飲んでみたい薬になるでしょう。しかし、もし飛行機の安全性が99%といわれたなら、まずその飛行機には乗らないことをおすすめします。安全性99%の飛行機を10機購入した航空会社が、10人のパイロットを雇い、1日に1回ずつ飛行機を運行したとすると、100日後に生きているパイロットは、3−4人ということになるのです。これでは安全とは言えません。この違いはもちろん、分野によって求められる安全性が大きく異なることによります。病気の治療の有効性と、誰もが乗る飛行機の安全性を同じ立場で議論す流のはナンセンスでしょう。では乳房再建において、誰もが納得できる安全性というのは、果たしてどれくらいになるのでしょうか?

 

そもそも手術での成功、失敗の定義は難しいことが多いです。癌を切除する手術の場合、癌が取りきれなかったからといって、それは失敗とは言わないからです。手術は成功したけど、癌が予想よりも広がっていて、取り切る事ができなかったという表現になります。最終的には5年生存率という用語で語られるでしょう。仮に取りきれない手術であったとしても、その後の治療も含めて5年生存率が優れていれば、それは良い治療となるのです。ですから、成功・失敗という線引きが難しいです。しかし、乳房再建の手術では、成功・失敗というのは血流が流れたかどうか、というレベルで白黒がはっきりしており、術後10日以内には結論がでます。だからこそ、がんや高血圧の治療と異なり、成功率が、まるで飛行機の安全性のように、よりシビアに関わってくるのです。

一般的に言われるような、95から98%の成功率では安全とは言えないというのが、私の意見ですし、多くの再建外科医が同意するでしょう。ですから乳房再建を行う施設では、自家組織移植術の成功率を高める様々な工夫がなされています。特に血管吻合の方法や、術後のモニタリングや、再手術のタイミングに、こだわりを持って手術をされている施設が多いようです。学会で話を聞くところでは、乳房再建を多く行っている施設では、少なくとも98%以上から99%前後の成功率を維持されているようです。98も99もあまり変わらないと思うかもしれませんが、このレベルで成功率を1%上げる、0.5%上げる、というのは実はとても大変なことなのです。