土曜日。一ヶ月ぶりに東京の部屋に戻った俺は引っ越しの準備を始めた。
水曜日までやるべきことは
1.部屋の荷物の中で必要なものを四日市に郵便で送る
2.要らないものは捨てる
3.不動産管理会社の引っ越し手続きを終わらせる
4.ビザ申請のために行政書士が持って行った俺の在留カードとパスポートをもらう。
5.転出届を出す。
6.俺の体が四日市まで移動。
7.転入届を出す。
8.銀行に住所変更申請。
9.現金カードの再発行。
1~9までのことを水曜日まで終わらせるべきだった。日本で住んだ経験が短かった俺はどれだけの時間がかかるか分かる方法がない。もちろん、誰にも聞けない。独りぼっちなので。
課題1から問題が発生した。荷物は箱三つで片付けることが出来た。部屋から一番近いセブンイレブンに行って、荷物を送ろうとした。なぜセブンかって?働いたせいでマニュアルの内容が分かるから、断れても対応出来る。外国人って言うものは毎日断れる存在だ。
コンビニの店員:もう4時過ぎたので今日の分の受付は出来ない。
俺:で?
店員:4時過ぎた。
俺:で?
タメ口だ。それに騙そうとしてる。その日発送時間が過ぎても、受付を断ることは出来ない。次の日出発するだけだ。
店員:オ!ワ!リ!
俺:何でタメ口を聞いてんだ?受付しろ!マニュアル通り!
便:……明日出発なになりますが、宜しいでしたか?
何で過去形なのか。日本の教育システムにはかなり問題がある。
俺:はい
2番目の箱を持ってセブンに行った。
店員:160cmを超えて受付が難しいです。
俺:確認してみてください。
店員:外観から見ても160cmを超えますが…
俺:確認しろって!
店員:確認してみます。
155cm。部屋で確認してから来たのだ。
店員:155㎝ですね。
俺:で?
店員:受付出来ます。
俺:それは最初から分かってますが。
店員:…
俺:外国人だから断ろうとしたんですか?
店員:…
俺:私は近くのセブンで先月まで働いたので断ることが出来ないことくらいは分かってますよ。
店員:…
俺:謝らないんですか?
店員:…申し訳ありませんでした。
3番の課題も問題があった。引っ越しをする前に不動産管理会社から部屋の検査を受け、破損がある場合お金を請求されるらしい。
水曜日まで四日市で終わらせることがたくさんあるのに、不動産管理会社に電話をかけると、頭が壊れた女の社員が「火曜日に行くね!」って話して電話を切った。
火曜日まで東京にいることになった。
火曜日。
頭が壊れた女の子の好みを予想し、お茶とクッキーを準備した。日本人がやる仕事は気持ちによって結果が変わるからだ。約束の12時。
来たのは初めて出会うおばあさんだった。八十歳くらいにみえる。作戦変更だ。
日本の老人は貧しい国から来て頑張る外国人青年をみると喜ぶ。麦茶を出してネパール人の日本の発音を真似した。
おばあさん:海外生活って大変だろう?
俺:ガンブァリマス!
おばあさん:困ったこととかあるかい?
俺:ミナサン、トテモ、シンシェチュデス!
部屋はみないで一時間の間話し続けたおばあさん。部屋はみないで問題ないとチェックして帰った。帰りながらもう一言聞いた。
おばあさん:日本はどんな国にみえたかい?
俺:日本人にはいい国にみえました。
俺にはもう時間がない。4~9までの課題を明日まで終わらせる必要があった。かばんの中身を確認しながら行政書士に電話をかけた。
行政書士:あ!ユンさん。入管の前です!並んでる人が多くて、まだ申請できませんでした。
俺:いや、着手してから40日過ぎましたよ。並びの問題じゃないでしょう?早く申請して在留カードとパスポートを返して欲しいんですが。
行政書士:とにかくまだ返すことはできません。失礼します。
俺:あ、あ、あ!!切らないでください!私は今日転出届を出す必要があります。今在留カード返してください。
行政書士:引っ越しするんですか?
俺:はい。
行政書士:ビザが出る前に引っ越しはちょっと…
俺:転出届出して、四日市行って、転入届出さないと銀行も病院も利用が出来ません!お金なしで生活しろってことですか?
行政書士:今入国管理局だから聞いてみます。聞いて連絡します。失礼します。
電話が切れた。かけ直しても出ない。
とりあえず、中野区役所に向かった。区役所で行政書士の電話を待った。一時間待って、電話をかけ直した。出ない。事務所のほうに電話をしてみた。事務員に行政書士の名前を言うと、電話に出る行政書士。
俺:なぜ電話に出ないんですか?
行政書士:忙しくて…
俺:今、銀座事務所にいらっしゃるようですが…じゃあ、品川入国管理局での手続きはもう終わりましたね?なぜ連絡してくれないのですか?
行政書士:転出届出してもいいです。でも、転出届を出すと、管轄が変わってしまうのでビザの受け取るのは直接やってください。名古屋管轄になるから。私が名古屋まで行くと別途サービスです。
俺:そんなのはどうでもいいから早く在留カードください!区役所閉めっちゃう!
行政書士:在留カードは銀座にあるうちの事務所にあります。失礼します。
銀座まで走り出した。
銀座の行政書士事務所はお化けが出るような建物だった。カビの臭いが酷いエレベーターに乗って、行政書士事務所のベルを押した。 女性事務員がドアの隙間で手を差し出してパスポートと在留カードを渡す。 ドアくらいは開けてくれてもいいじゃないか…
また、走り出した。中野区役所まで。ギリギリセーフで転出届を出すことが出来た。
6~9の課題も火曜日まで終わらせることが出来た。もちろん、戦争みたいな戦いで。
課長からもらった新幹線チケットは席の切符がなかった。自由席4000円をじばらで払った。
もうすべてがうんざりだ。
戦争みたいな毎日。もうやめたい。