事実はなぜ人の意見を変えられないのか ターリ・シャーロット | (本好きな)かめのあゆみ

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

副題は

説得力と影響力の科学。

 

著者は認知神経科学の教授。

 

途中まで男性だと思って読んでいた。

 

自らの偏見が恥ずかしい。

 

数字や統計や科学的根拠が

必ずしも(どころかほとんど)ひとを説得する際に役に立たないことを

実生活において繰り返し経験しているので

つねづね

これはいったいどういうことなんだろう

あいてのひとはばかなんだろうか

と訝っていたのだが

じっさいにはぼくよりも頭の良い人に伝わらないことも多く

自分の伝え方の未熟さを嘆きつつ

でもやっぱりこれは

人間の動物的なメカニズム(習性)によってこういうことになるのではないかと

うすうす感じていたこともあって

この本に書かれていることは

ひとつひとつじつにうなずけるのだった。

 

あらかじめひとが持っている先入観を変えるのが困難な理由

(経験によって獲得した「事前の信念」を変えない習性)

感情によって歪むひとの知性

(扁桃体を始めとした原初的脳の働きを直接刺激されると引きずられる習性)

快には近づき不快からは遠ざかりたいメカニズム

(ひなの実験「近づくと餌が遠ざかり遠ざかると餌が近づく仕組みを覚えられない」習性)

主体的に行動させることの効用

(自分でコントロールしている感覚に安心する習性)

好奇心の活用

(情報は生存において水や食料と同じ価値を持っていた時代の習性)

ストレスやプレッシャーが判断に与える影響

(ストレスやプレッシャーのある状況ではより優先的な情報のみで判断する習性)

他人の影響

(自分で決めていると思っていても実際は多数者の判断に引きずられる習性、感情が周囲に伝染する習性)

などについて

わかりやすいエピソードや実験

語りによってまとめられていて

好奇心がくすぐられた。

 

実験もけっしてあたらしいものばかりではなく

かなり前の実験もあるから

このへんの疑問はいまもむかしも変わらずにあるということだろうが

インターネットをはじめとするコミュニケーション技術の発展に伴って

加速度を増しているんだろう。

 

人間は動物の一種であるから

簡単には乗り越えられない習性があることを忘れてはいけないし

自分に自覚がなくても自分の思考はバイアスだらけで

いろいろなものに引きずられているということも意識しておかないといけない。

 

それから

情報を得ることが水や食料を得ることと同じ価値として

脳に捉えられているということから

インターネットの情報をやたらと集めてしまう行動の理由がわかる。

 

ネットサーフィンをするのは

おやつを食べているのと同じってこと。

 

1回読んだだけですべてを覚えることはできなかったけど

この本の内容を自分のものにできたら

さぞかしひととのコミュニケーションに自信が持てるだろうし

自分の生活のコントロールもうまくいくだろうと思う。

 

いろいろ試行錯誤してもぜんぜん解決しない問題は

このアプローチで試してみると展開が全然違うかもしれないと思う。

 

もっとも

最終章で語られる未来像には

マッドなサイエンスの印象が濃厚で

ぼくにはまだ受け入れられない気がするし

この本の内容を悪用しようとすればできるので

取扱注意とも感じた。

 

ただし

編集部が最後に引用しているように

「蛇と戦うには、その毒を知らなくてはならない」ので

人間を操ろうとするひとびとや

対立をあおろうとするひとびと

フェイクを信じさせようとするひとびとと

戦うための知恵として持っていたい知識であるのは確かだと思う。

 

 

 

 

 

--事実はなぜ人の意見を変えられないのか--

ターリ・シャーロット 著

上原直子 訳