ひる(17) | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

  やがて、もうすぐ目的の駅に着くというアナウンスが流れてきた。隣の座席に置いていた荷物を抱えて立ち上がる。そしてドアに向かって振り向くと、しかしそこにはまだ男たちが立っていた。

 双子かと見まごうほどにうりふたつの黒いスーツの男たち。どちらも背が高いが痩せすぎている。そしてあきらかにこちらを見ている。

 ひとりの男が言った。

「あなた、さきほど電車に乗る前に駅でこの茶封筒を捨てましたね?」

 男はやにわに見覚えのある茶封筒を鞄から取り出した。あの茶封筒だ。しかしなぜこの男が持っているのか?

 答えないでいるともうひとりの男が口を挟んだ。

「これはあなたには必要なものです」

 喫茶店で出会った女性と同じく一方的で断定的な口調。いったい何なんだ。

 しかもこのふたりは敵対する組織の構成員だ。もしやこちらのことを知っているのか?

 そうだとすると厄介だぞ。身分がばれているのなら、ただでは済まないだろう。このまま拉致されるか、あるいは消されてしまうかもしれない。

 電車が駅に着いた。すばやく男の手から茶封筒を受け取って、緊張しつつ男たちの前をすり抜け、ドアに向かった。

 しかし男たちは、妨害するでも追いかけてくるでもなく、ただその様子を見ているだけだった。

 ドアが閉まり、電車が出発した。ホームから、動く電車を目で追いかけていると、男たちがさっそく運転席の後ろの例の特等席に座ろうとしているのが見えた。よほどあの席に座りたかったのだろう。

 結局、男たちからは何も危害を加えられることはなかった。ただ、こちらの手元にはなぜかあの茶封筒が戻ってきていた。

 走り去った電車のあとの空には重い灰色の雲がさらに厚く広がっていた。