モノレールは高台のさらに高い位置にあるレールの上を走っている。車窓から見渡せるのは遠くの広い平野に集積する都会のビルディングの群れ。
さらに厚くなった灰色の雲が重く垂れこめ、ビルディングの高層階は雲に呑み込まれているように霞んでいる。
モノレールの上を走るおもちゃのような車両の先頭には、運転士の後ろにガラスの壁を隔てて特等席ともいえる座席が二席だけ設置されている。電車好きのこどもとそのこどもを連れたおとなが座るのにふさわしい座席である。
ここでは運転士の視界を体験することができる。ジェットコースターの先頭の視点。ふだんなら恥ずかしくておとなひとりで座るなんて到底できないが、いまは誰とも向かい合わせでは座りたくない気分だったので、対面に席のないこの特等席が空いていたのをいいことに陣取った。
ほかの誰にも座られないように、隣には荷物を置いた。この際、マナー違反には目をつむってもらうことにする。どうせ平日の昼間で、この車両に客はほとんど乗っていない。
結局、今日は乗らないでおこうと決めていた電車に、やはり乗ることにしたのは、あの喫茶店の前の通りであの女性とやりとりをした後、このまま歩いてどこかに向かうというのがなんとなく億劫に感じられてきたからだった。
それでひとまずいつもの電車に乗ってみようと思い直した。
例の茶封筒は、駅のごみ入れに捨ててきた。