アイデアがおもしろい。
狙いはなかなかいい。
ちょっと説得力に欠けるかな
と思ったのはぼくの読みの浅さのせいか。
正義が暴走して社会が硬直化し自由が失われていくさまがよくわかる。
いや
正義じゃないのかもしれないな。
佐熊と栗木田の場面は大きな見せ場だったと思うけど
ぼくならあんなことで説得されない。
主人公の霧生がなぜ感化されて
そしてまたなぜふたたび疑問を感じることになったのか
その動機がいまひとつ弱いような気がした。
あと
カルトっぽい洗脳の方法も
できればもっとおだやかなやり方の方が
恐ろしさがじわじわと来そうな気がする。
それから
図領と栗木田の行動の動機ももっと知りたかった。
でも
前半の理不尽なクレーム対応のところは結構読み応えがあった。
ともあれ
金や権力が目的で他人を支配しようとするのは
厄介ではあるもののまだ理屈がわかるのであるが
自分なりの正義感に基づいて他人をそれに従わせようとするのは
もっとおそろしいと思う。
単に欲望に忠実な行動でなく
自分なりの道徳観に基づいての行動なので
他人が否定しにくい。
で
実はこの小説のなかでもっともまずいひとたちは
この状況を無関心ゆえに放置し
あるいは疑問を感じず
またはやむを得ない
と取り込まれていったひとたちだと思う。
それから
社会に不満と不安と絶望を抱き
孤立し
虚無感に呑み込まれたひとたちが
カリスマと呼ばれる破壊的な何者かに
共感しつながったときの
カタストロフの展開も
現実の写し絵である。
--呪文--
星野智幸