衝撃的なタイトル!
だからキャッチ―。
副題は
“「トロリー問題」が教えてくれること”
そう
この本はぼくの好きなトロリー問題を扱っているのだ。
ぼくが初めてトロリー問題に出会ったのは今から5年前。
NHKでマイケル・サンデル教授の
ハーバード白熱教室
を観たときだ。
ものすごい課題を突き付けられた
と感じた。
だって
5人を助ける替わりに1人を殺すことは許されるか
っていう問題って考えられる?
どんな理由があっても人を殺すことは許されない
と考えてきたぼくにとってその問いを発すること自体が
ショッキングだったからだ。
しかしトロリー問題のさまざまなバリエーションを知るにつれ
ぼくのその考え方は安易だったと思い知らされることになる。
思考実験なんて現実の問題の解決にはなにひとつ役に立たない
っていう批判はその通りだと思うし
ぼくが思考実験好きなのもただのゲーム感覚に過ぎない
という自覚もあるけれど
それでもトロリー問題を考えることが
現実の問題に違った角度から光をあててくれるのではないか
とも思う。
この本ではたくさんのトロリー問題のバリエーションが紹介される。
それは同時にトロリー問題の歴史でもある。
そもそもトロリー問題の最初のバージョンは
1967年に人工妊娠中絶の是非について論じるために発表されたらしい。
最初は難解な学術誌に載ったわずか14ページの論文だったのが
その後人工妊娠中絶という主題を離れ
“トロリオリジー”と呼ばれる主題そのものとなり
現代まで多くの研究者が思考を積み重ねてきた。
その論法は
ISの虐殺とアメリカの攻撃の違いを説明するためにもつかわれているらしい。
いわく
意図的に無辜の市民を狙うか
予見はされるとしても決して意図的ではなく市民に被害を与えてしまうか
の違い。
功利主義的な発想が支配する現在の世界で
果たして義務論的な倫理の力はどこまで有効か。
また
人間の自由意志とはほんとうの自由なのか
といった問題提起もなされる。
脳の機能や脳内分泌物がひとの行動を規定するとするならば
人間の自由意志などしょせんそれらのなせるわざに過ぎない
という発想もある。
そんなふうに
トロリー問題からさまざまな思考を喚起するように
この本はできている。
さてここでタイトルの問題である。
太った男を殺しますか?
ぼくの答えは
NO
だ。
さらにいえば
分岐線のスイッチも切り替えない。
しかし
この問題が現実の問題の写し絵として目の前にあらわれたときに
同じ判断を速やかにくだせるかといえば
正直なところ自信がない。
--太った男を殺しますか?--
デイヴィッド・エドモンズ
訳 鬼沢忍