お伽草紙のラストは“舌切雀”。
冒頭からテクニカル。
瘤取り、浦島さん、カチカチ山ときたら
ラストは桃太郎だろうなんていいながら
あれやこれやと理由をつけて桃太郎を回避する。
やるね。
発表は昭和20年10月だが
完成は昭和20年7月という。
終戦の直前ということは
戦争真っただ中に書かれているということだ。
いつ戦争が終わるとも知れぬなかで
検閲の目を免れて発表するための苦心があるはずだが
21世紀のぼくの目から見てかなりきわどい表現がある。
すごいな。
作家の技巧もさることながら
こういう作品が戦時中も許されていたんだな。
あいかわらず太宰ならではの
人間観察に基づく皮肉やユーモアが充満している。
そもそも舌切雀ってどんな話だっけ
と思いながら読むのだが
おじいさんとおばあさんの描写が絶妙にシニカル。
本ばかり読んで世の中の役に立たないおじいさんは
とても他人とは思えない。
おじいさんのおばあさんへの態度の冷やかさっていうのも酷い。
そんなにおばあさんって駄目なふうには思わないんだけど。
おじいさんと雀のやりとりが知的でユーモラスで素敵。
そりゃあおじいさんにとってはおばあさんよりも雀といるほうが楽しいだろう。
ぼくにもこんな雀の友だちがほしい。
それにしてもどうしておばあさんは最後にあんな目にあわないといけないのだろうか。
知識ばかりあって行動力のないおじいさんのような人間は世の中にたくさんいる。
まあすごく皮肉が効いているが
おとなのメルヘンとしてはすばらしい作品だろう。
--舌切雀--
太宰治