思ってもいないことをつい口走ってしまうという現象 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

思ってもいないことをつい口走ってしまう現象ってあるよね。


川上未映子さんの“すべて真夜中の恋人たち”は

ぼくにとっては男女の恋愛ではなくて女性どうしの友情を描いた小説なんだけど

特に好きな部分は冬子が三束さんとの逢瀬から自宅に帰ると不意に聖が待っていてそこでふたりの対決ともいえるシリアスなやりとりがなされるところ。


それはすごくひりひりするやりとりで

聖は冬子に対して確実にダメージを与えることばを選びピンポイントで急所にぶつけてくる。


冬子がついに涙を流してしまいそれをみた聖は急におろおろとあわてる。


――聖はどうしていいかわからない顔をして、ごめんなさいと謝った。連絡がとれなくなって、どうしちゃったのかと思って、心配で、でも腹も立っていて、でも、こんなひどいことを言うつもりじゃなかったのに、ごめんなさい、ごめん、と言って床に座りこんで、わたしの腕をさすりつづけた。あんなひどいことを言うつもりじゃなかった、と言って聖は泣いた。わたしは違うの、と言って、あなたは何も間違ったことを言っていない、わたしが悪いのと言って、わたしの腕をさする聖の腕をさすった。聖は、違うの、わたし意地悪になって、いつもこうなってしまうの、それでいつもだめにしてしまうの、何もかもがだめになるの、あなたにも、ひどいことたくさん言ってしまった、言わなくていいことまで、そんなつもりのないことまで言ってしまった、と言って顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。


この文章がすごくいいと思う。


わかるわあこの感じ。


こんなひどいことを言うつもりじゃなかった。


言わなくていいことまで、そんなつもりのないことまで言ってしまった。


口論がエスカレートしてくるとしばしばこういうことになっちゃう。


理屈に理屈で応戦していくと

だんだんと理屈のための理屈になっていって

自分でも理屈に酔っていって

理屈としては正しいんだけどこの場で言うことじゃないよね

っていうようなことがポロリと口をついて出てしまう。


そもそも自分自身はそういうふうに思っていなくても

こういう考え方もありえるんじゃないかなあ

ということをあたかも自分の意見であるかのように言ってしまって

思わぬ展開になってしまうってこともある。


自分で話しながら

あれれえおかしいぞー

って頭の隅で意識できているのに自分の力ではもう止められない感じ。


わかりやすく興奮していたら周囲が止めてもくれるんだろうけど

なまじ冷静そうにみせる習慣が身に染みてしまっているのでやっかいだ。


わかいころにはこういうことがきっかけで人間関係を傷つけてしまったこともあったけれど

最近ようやく

さっきはちょっと興奮して思ってもないようなことをいっちゃってごめんね

なんて自分から謝ることができるようになってきた。


謝られた相手はぼくが興奮していたなんて気づいてなくて

ましてやそれはそれで理屈としても筋が通っているので

何に対して謝られているのかわからない感じになっていることもよくあるのだが。


まあにんげん

口に出していることがすべてそのひとの本心かどうかはわからない

っていうけどそれは意図的につかいわけている本音と建て前の場合だけじゃなくて

こういう興奮して思ってもないことを言っちゃうって場合にもあてはまるっていうことだなあ。