端正。
ひとことで表現するとすればこのことばがふさわしい。
かつては、退屈だなあと感じていたバッハの作品。
齢を重ね、さまざまな音楽を耳にするにつれて、いつの間にかその魅力がわかってきた。
第1番ハ長調 BWV.846
第2番ハ短調 BWV.847
から始まり
第23番ロ長調 BWV.868
第24番ロ短調 BWV.869
まで
各調の長短を網羅しているこの曲集。
シャルル・グノーがアヴェ・マリアの伴奏に用いた第1番からはじまるそれぞれの曲。
ちょっと聴いただけでは単調だとも思えるそれぞれの曲は、じっくり聴くと実に多彩だ。
それぞれの曲にはタイトルはない。
標題音楽ではなく絶対音楽。
素人考えだが、これらの曲は、なにかをイメージしてつくられたものではなく、数学的な厳密さでもって、緻密に設計されているのだと思う。
けれどもけっして無機質ではなく、ひとのこころに訴えるなにかがある。
それはつまり、これらの曲の背後には、なんらかのことばがあるからなのだろう。
たとえば教会の音楽は、聖書のことばに似合うようにつくられているような気がする。
音楽が先かことばが先か、という問いについて考えてみるのも愉しいかもしれない。
グレン・グールドの演奏が収録されているこの曲集のアルバムを聴いていると、なんだか瞑想に耽っているような感覚になる。
こころのなかの不調和がすっきりと調えられていく感じ。
バッハの音楽は、宇宙とつながる時間と空間を与えてくれる音楽なのかもしれない。
――平均律クラヴィーア曲集 前奏曲とフーガ第1巻――
作曲 ヨハン・セバスティアン・バッハ
ピアノ グレン・グールド