聖なる夜には暗黒寓話集。
といっても
タイトルほどには暗黒でもないし寓話らしくもない。
いやまあこれはこれで島田ファンとしては悪くないんだけど。
でもファンだからこそちょっと辛口になってしまう。
8つの短編が収められている。
どれも軽くちょちょいと書いてみたって感じ。
はっきりいって読後にも軽い印象しか残らない。
っていうか
読んでいるあいだでもたいしてこころの動きは起こらない。
深みがないっていうか
迷走しているっていうか。
だから
島田雅彦ファンには必読の書
ってわけではない。
たぶん。
もしかしたら確信犯なのかもしれないけれども。
“アイアン・ファミリー”
には
古事記然としたしつらえのなかに
悠久の毒が含まれている。
“死都東京”
では
思いがけない死後の世界が描かれている。
“夢眠谷の秘密”
は
アースダイバー的地霊の影響が見て取れる。
“透明人間の夢”
は
ああむちゃくちゃな展開だけど最後それかって感じ。
“名誉死民”
は
この短編集のなかでは一番好きかも
な作品で
寓話的ありえないやりとりではあるが
そういう展開と着地点が島田雅彦っぽくていい。
“南武スタイル”
と
“神の見えざる手”
は
珍しく私小説っぽいテイスト。
最後の
“CAの受難”
は
飛行機事故により海上で漂流する
日本人のCAと韓国人、中国人の乗客のあいだで
交わされるやりとりがどう転ぶか不安定で
まさに遭難している寓話。
先入観を抱きながら読むと
ラストでずらされてしまうところが心地いい。
社会の空気を敏感に察知しながら
しかしそれに迎合するでも反発するでもなく
ちょっと光のあて方を変えてみる
っていう島田的天邪鬼で斜に構えた視線。
実はこの短編集でいちばん読む価値があるのは
作者が書いた“はじめに”であったりする。
こんな時代だからこそ
妄想が必要。
――暗黒寓話集――
島田雅彦