才覚はあるが
いい加減で無責任。
熱しやすくて
冷めやすい。
金科玉条は
なるようにしかならぬ。
東京の地霊が語る自叙伝。
1845年から現代まで。
東京っていろんなことが起こっているね。
日本の首都だからね。
前世は○○だった
なんて話もあるけど
この地霊の場合は
そういうのとは違う。
輪廻転生
っていうのとも違う。
宇宙のすべてと一体化している
っていうのでもない。
もちろん
地縛霊
っていうのでもない。
時間の概念が適用されない。
同時に複数
存在しさえする。
記憶は残るが
経験として蓄積されない。
道徳観や
責任感もない。
実にいい加減だ。
あまりにも
いい加減で
無節操なので
読んでいるといらいらする。
けれども途中でふと気づく。
これはぼく自身でもあるのだ。
なるようにしかならぬ。
破滅的な思考。
斜陽の国
日本とともに滅びよう
ゆるやかに死んでいこう
なんて
わけ知り顔に語るひとたちと
日本を元気に
日本の誇りをとりもどそう
なんて
痛々しく躍起になるひとたち。
彼らはどちらも無責任だ。
けれどもその無責任をだれが責められよう。
ぼくたちはみな
幻の尾っぽにびりびりと電気が走っている鼠だ。
ここ200年の
日本の主だった出来事が挿入されていて
そういう点でもマアおもしろい。
――東京自叙伝――
奥泉光