審判〈商人ブロック・弁護士解約〉 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

とうとうKは弁護士から代理権をとりあげようと決心した。


そう決意した日の仕事はまったくはかどらず、残業になってしまい、弁護士の家にたどり着いたときには夜の十時を過ぎていた。


Kを出迎えたのはレーニではなく、ひとりの男。


ブロックという名の商人で、男も弁護士に代理を頼んでいるのだった。


ブロックを一見したKは自分の方が男よりも立場が上だと見切り、ぞんざいな扱いをする。


また、レーニとブロックがいい関係になっているのではないかと疑う。


台所で、レーニとブロックとKのやりとりがはじまる。


なぜ台所なのか。


どたばた劇にはふさわしい場所。


レーニに弁護士とのアポイントを依頼するK。


レーニが弁護士のもとに立ち去っているあいだに、Kはブロックに訴訟の話を聴こうとする。


もちろん上から目線で。


最初は話を渋るブロックだったが、自分が知る秘密をKに打ち明けるのと引き替えに、Kの秘密を打ち明けるよう約束させて話し始める。


ブロックはこの弁護士以外に5人ものもぐりの弁護士を依頼しているのだった。


この世界では、弁護士を依頼しておきながら、もぐりの弁護士に依頼することは許されないという。


6人もの弁護士を雇うせいで、ブロックの商売はどんどん小さくなっていき、現在ではほとんど訴訟のためだけに毎日の時間を過ごしているのだった。


さらにブロックは、屋根裏の裁判所事務局で、Kを見ていたという。


被告人仲間の迷信では、被告人の唇の恰好から訴訟の成り行きが読み取れるとされ、Kの唇には有罪判決のしるしが見て取れたらしい。


そんなブロックの話にだんだんとひきこまれていくK。


やがて、ブロックに対する優越感などはすっかり消え失せ、重要な人物から重要な話を聞き漏らすまいと熱を帯びていく。


レーニが戻ってきて、弁護士のもとへKを案内しようとするが、Kはまだまだブロックに聞きたいことがある。


するとレーニがいうには、ブロックの話はいつでも聞ける、なにしろ、ブロックは毎日この家に止まっているらしい。


それは、弁護士がいつ会ってくれるかわからないから。


ブロックにとって弁護士は会いたいときに会える人物ではなく、望んでも会えず、弁護士の気まぐれでたとえ夜中でも呼ばれたときにすぐいかないと会えないからだった。


いつでも望めば会えるKは特別扱いなのだ。


なぜ、Kが特別扱いなのか。


Kの叔父が弁護士と知り合いだからというのもあるが、Kの事件が弁護士にとって興味深いのもその理由である。


ブロックは、もともとレーニが使っていた、ベッドひとつでいっぱいの狭い女中部屋に寝泊まりしているのだった。


だんだんとブロックのことが疎ましくなったKは、ブロックの第一印象を思い出して、やはりこの男はつまらない男だと決める。


弁護士のもとに去ろうとするK。


しかしブロックは、Kの秘密をまだ聞いていないと粘る。


Kは、これから弁護士を解約しに行くのだ、と告げる。


止めようとするレーニ、台所の中を叫びながら走り回るブロック。


なんだこりゃ。


レーニを振り払って、弁護士の部屋に入るK。


弁護士は、Kの姿を見て、異変は感じたものの、余裕のある様子で、Kにいう。


レーニは、たいていの被告を美しいと思ってしまう。


そしてどの被告にも惚れ込み、愛してしまうらしい。


また、弁護士自身も被告が美しいのは認めているのだった。


なぜ被告は美しいか。


罪のせいでも罰のせいでもなく、それは訴訟手続のせいである、という。


この話を聞きながら、Kはいよいよ弁護士を解約する決意を確かにする。


そして弁護士に解約を告げる。


こういう場面には慣れているかのように、弁護士はKに翻意を促す。


いかに自分がKを特別に扱っているかを知らせるため、弁護士はレーニにブロックを連れてくるよういいつける。


Kに弁護士とブロックとのやりとりを見せようというのだ。


ブロックは、みじめな犬のように、弁護士の前でびくびくとしている。


ブロックをひどくぞんざいに扱う弁護士。


Kに見られている屈辱を味わいながらもブロックは弁護士の一挙一動に一喜一憂する。


弁護士は、ブロックに直接にではなくレーニに対して、ブロックについての裁判官とのやりとりの様子を語る。


もちろんブロックに聞こえよがしに。


そして、裁判官が述べたブロックに関することばをレーニに告げる。


それはあまり好ましいものではなかったため、ブロックはうろたえる。


とりみだすブロックに弁護士はいう。


――おとなしくしていろ、ブロック。裁判官がそう言ったからと言って、おまえには何の意味もない。いちいち驚くんではない。おまえというやつは、一言いえばまるでそれが最終判決でも来たように人を見るんだからな。まだおまえは生きている、まだわたしの保護下にある。無意味な心配をするな! 最終判決というものは多くの場合まったく思いがけずやってくる。わたしは一裁判官の言葉をそのまま繰り返しただけだ。が、おまえも知ってのとおり、訴訟手続のまわりにはさまざまな見解が重なりあって、見通しもつかんほどになっている。


大聖堂にて、に通じるモチーフ。


複雑で遠大な訴訟手続。


誰も全体を理解できない。


それなのに重要な決定が行われる。


組織の本質。


組織を社会といいかえてもいいし、世界といいかえてもいい。


あるいは、「わたし」そのものですら、果たしてぼくたちは全体を理解することができるのだろうか。


震えるくらいに熱く、カフカの描いた世界に痺れる。






――審判〈商人ブロック・弁護士解約〉――

フランツ・カフカ

訳 中野孝次