ぼくにとっての初ポール・オースター作品。
人気作家さんなので前々から気にはなっていたものの、なんだかんだできっかけがなく、こんにちに至る。
こういうことって多い。
なにしろ、本の数は星よりも多いから。
“孤独の発明”とか“幻影の書”とか“ブルックリン・フォリーズ”なんかから入りたかったのだが、最新邦訳のこの作品に関する訳者の柴田元幸さんによる書評が振るっていたので、ここから入ってみた。
たしかにうまい。
謎の部屋にいるミスター・ブランクと呼ばれる人物が、その部屋に訪ねてくる何人かのひとたちと会話したり、文章を読んだりしているだけなのだが、実によく読ませる。
小説の技法に優れている。
どんなことでも思い通りに描く熟練の技。
ひょいひょいとペンが進むさまを思い浮かべてしまう。
が、かといって心動かされるとかそういうことではないし、既存の価値観を揺さぶられるとかそういうこともない。
これはぼくが歳をとったせいか。
にしても、それらを差し引いても、やはり読書好き、特にひねりの利いた技巧を愉しむのが好きな手合いには、うってつけの作品だとは思う。
もしかしたら、作者のこれまでの著作を読んでいるファンのひとならさらに愉しめるのかもしれない。
ミスター・ブランクとは何者か、そして彼を訪ねてくるひとびとと彼との関係は。
作中でミスター・ブランクが読まされる報告書のような文章も、それだけで面白味のある作品だが、作品の登場人物が読む作品の登場人物という入れ子構造が、この物語の核となるのだろう。
さて、次に読む彼の作品は、どれにしようか。
――写字室の旅――
ポール・オースター
訳 柴田元幸