A国の政府がひとびとを苦しめているという。
(本当に苦しめているかどうかは立場によって見解が異なる。)
もう我慢できないとひとびとが立ち上がり反政府運動が起きる。
(反政府運動が本当に我慢できないひとびとの集まりかどうかは立場によって見解が異なる。)
やがてそれは軍事衝突となり、政府軍と反政府軍との内戦となる。
(一説では、他国の政治組織が反政府軍に混ざりこみ、おだやかに反政府運動を展開しようとしていたひとびとを押しのけて軍事衝突を始めたという情報もある。)
内戦というのはつまり、政府軍か反政府軍かによって、お隣さんどうしであっても殺しあうということである。
(そもそも戦争は酷いものではあるが、ある意味、内戦は国と国との戦争よりもひどい状況である。)
A国の内戦を国際社会は憂える。
(それは単にA国のひとびとが心配だからというだけではなく、その影響が周辺地域や自国へも波及しかねないからでもある。)
とはいえ、国際世論は一枚岩ではなくて、A国の政府軍よりの国と反政府軍よりの国に二分される。
かねてからA国の政府と協力関係にあったB国はもちろん政府軍を支持する。
(B国はA国の政府軍に武器を供給して利益を得ているという説もある。)
いかなる国であろうとひとびとを苦しませる政府は許さないという姿勢のC国は反政府軍を支持する。
(しかし、C国の中では、反政府軍にはC国が許すことができない他国の政治組織が混ざっているのではないかという説もある。)
支持はするけれども、B国もC国も実際的な行動には移さない。
というのも、国際社会では、他国の内政に干渉することはタブーとされているからだ。
(どの国の政府だって、他国から自分の国の問題に口出しされたくないよね。)
ところが、A国の政府軍が越えてはならない一線を越えたのではないかという疑惑が浮上してくる。
(国際ルールでは、これはやっちゃいけないというルールがいくつかある。それをどこかがやり始めると、うちもうちもとみんなが始め、結局は泥仕合になってひどい状態になることがわかっているからだ。そもそも無法な戦争に、そういうルールがあるなんてなんだか不思議だね。)
A国の政府軍はこの疑惑を否定する。
(内戦状態の国で証拠なんてそう簡単に見つかるわけがないし、それに、過去に火のないところに煙を立てられた例だっていくらだってあるから、疑惑っていうのはほんとうに疑惑なんだ。)
けれども、C国としては疑惑がある以上黙っていられないので、A国の反政府軍に実際的に協力しようとする。
(だってC国は、ひとびとを苦しめる政府は決して許せないわけだから。)
政府軍を支持するB国は、ちょっと待ってよ、ってC国をけん制しつつ、あらたな提案をおこなう。
(C国が反政府軍に協力して政府軍が倒されるとA国に対する主導権がC国に奪われてしまうし、かといってB国としても、政府軍が本当に一線を越えているなら放置できないからね。)
A国の政府軍が今後絶対に一線を越えないと誓約させること。そしてA国の政府軍はその提案を承諾する。
(C国が反政府軍に協力すると、政府軍としては厳しいから。)
C国としては、B国の提案は一理あるので、それを認めざるを得なくなる。
(それに、本当はC国だって、あんまり他国の内戦に介入したくないのが本音。だって以前、D国で同じような状況になって、長期化した苦い経験があるから。)
そういうわけで、A国の内戦にB国やC国などの外国が介入することはなくなった。
めでたしめでたし。
ではなくて、結局、いまでもA国では、ご近所どうしが政府軍と反政府軍にわかれて血を流しあっているっていうこと。
友だちどうしが殴り合っていたら、ぼくたちは黙ってみているだろうか?
ふたりの問題だから、って放置しておくだろうか?
そういう態度もありうるけど、一般的にはちょっと待ってよ、って止めに入るのではなかろうか?
でも、国と国、っていうことになるとそうはいかない。
他の国の内戦には入っていきにくい。
なにしろその国の事情っていうのはその国に住んでいるひとにしか深いところまではわからないんだから。
単純に、ご近所どうしで殺しあうっていう状況は気の毒なことだと思うのだが。
ところで、C国がA国の反政府軍に協力すると、D国のように長期化する懸念があっただけに、B国の提案によってC国の介入が止まってほっとしたひともいるのではないだろうか。
けれども事はそう簡単ではない。
C国が引き下がったことを、C国の孤立主義が強まった、と懸念する見方があるようだ。
孤立主義っていうのは、自国のことだけ考える、っていうこと。
これまでだってそうだったじゃないか、と思うけれども、この場合はこういうことに影響する。
たとえば、C国と同盟関係にあるE国。
これまではE国がどこかの国に攻められたら、C国は助けに来る約束になっている。
けれども、C国の孤立主義が深まれば、E国がどこかの国に攻められても、何かと条件をつけて助けに来ないのではないか、という不安が強くなる。
E国の不安材料は、裏を返せば、E国と敵対関係にあるF国にとっては好材料だ。
これまで、E国を攻撃したくても、C国の後ろ盾を前にして実行できなかったが、うまく条件を整えればE国を攻撃してもC国は助けにこない可能性があるということだ。
少なくとも、E国とC国との関係を揺さぶることくらいはできるようになる。
このように、A国で起こっている内戦は、A国だけの問題ではなくて、E国やF国の問題でもあるのだ。
世界の空がつながっているように、世界の平和もつながっている。
そして。
セカイのヘイワはカンタンではないのだとつくづく思い知る。