土曜日の朝のカフェラテ | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

土曜の午前、朝と昼のあいだのぽっかりと忘れ去られたような時間帯。


車での移動中、閑静な住宅街のはずれにあるコーヒーショップに立ち寄った。


交通量のわりには広すぎる道路できれいに区切られたそのエリアは、周辺のまちと比べてあきらかにあたらしく、一代で財をなした階層をターゲットに開発されたことがうかがわれる。


ひとつひとつの家の区画がとりわけひろく、しかも、家の意匠もそれぞれに工夫されていて、さながら住宅展示場の趣さえ漂わせている。


住宅展示場と異なるのは、そこにはたしかに人間の生活の気配が感じられること。


天気が良く風が気持ちよさそうだったのでテラス席に出た。


熱いカフェラテを飲みながら読みかけの本を開いていると、夫婦が大型の犬を散歩させている様子が目に入った。


年の頃なら50代から60代前半。


カジュアルながらも品のよい服装に身を包んだ男性は、企業経営者だろうか。


あるいはこの近くの大学の教師とか。


いずれにせよ見るからに、余裕のあるおとなの男、といった印象である。


すり減った休日のサラリーマンといった感じはどこにもみあたらない。


女性の方も、あたかもどこぞのリゾート地でのバカンスかと見紛うほどの、完璧なカジュアルさとエレガントさを身にまとい、理想の50代を立体化したらこんな感じ、といった風情である。


彼女こそ、大学の教師か、起業家かもしれない。


出版社の編集者とか。


案外、主婦かもしれないが。


こういうカップルは、このふたりに限らず、何組もぼくの座るテラスの横を通り過ぎて行った。


いわゆる成功者たち、ということになるのだろうか。


若いひとたちもしばしば見かけるのは、彼ら富裕インテリ層の子息令嬢か、あるいは、周辺のまちからこのおしゃれなエリアに流れ込んできた学生たちか。


いつのまにか本そっちのけでヒューマン・ウォッチングに夢中になっていると、左手の甲にポタリと何かが落ちてきた。


青空から幾つぶかの雨のしずく。


ぽつり、ぽつりと本のページを濡らすそれらは、にわかにざあざあと流れ落ちてきて、そしてあわててぼくはコーヒーショップの店内に駈け込むのであった。