たまたままとまった読書時間があったとはいえ、ぼくにしてはめずらしく、ひといきで読み終えた。
最初はなんだかなあと思わされた主人公の鳴木戸定ではあるが、その(引いてしまうくらいの一風変わった)正直さに、どんどん魅了されていった。
小説全体を覆う、あふれんばかりのヴァイタルというか生命力に胸が高鳴る。
体温が上昇する。
編集者の定はロボットではないかと評されるほどの勤勉冷静さで、編集部のなかでも異彩を放っている。
その生い立ちは壮絶で、世間でも騒がれたことがあるので、見知らぬひとも定のことを知っていたりする。
定が担当する作家たちも、出会うひとたちも変わり者ぞろい。
けれどもそのすべての登場人物が、得体のしれない好感度でもって、小説の最後を迎える。
プロレスラーであったり、美女の同僚であったり、白杖の青年であったり。
フィニッシュは好みが分かれるかもしれないけれど、小説なんだからぼくはこれで満足。
すがすがしい、という形容はおかしいかもしれないけれども、突き抜けている。
先っちょだけのこと、わたしのすべて、あなたのすべてのこと。
同僚の小暮しずくと定の結びつきがぼくはとても好きだった。
そして定の口癖の、「お話の腰を折ってすみませんが、」などの独特の実直なフレーズが気に入った。
西加奈子さんは、窓の魚、を読んで以来、2冊目だけど、断然、この作品の方が良い。
独特のユーモアとペーソス、そして力強い明るさ。
続編を書いてくれないかなあと期待してしまうくらいユニークで魅力的な登場人物たちであった。
――ふくわらい――
西加奈子