ひと待ちの車内で雨の音を聴く。
エンジンは止めている。
車のボディをゆるく叩く雨粒の音は、耳から聴こえているのか、身内そのものから聴こえているのか、判別がつかないくらいに、ぼくになじむ。
車のボディわずか数センチの内と外では環境が劇的に異なる。
外に出ると雨に濡れるが、車内にいる限りはここちよい環境は守られる。
この安心感に身を委ねる。
母胎回帰。
羊水のなかの安心を思い出す。
この車の中は、母の胎内。
意識が車内の空気に溶けだし、混ざり合う。
聴覚を通さずに意識に直接ふれてくるこの静謐なリズムとメロディーがぼくのすべてになる。
雨はぼく、ぼくは雨。
コンコン。
ドアをノックする音。
視線をあげた窓の外には、傘を斜めにさしたあなたの微笑。
雨は車のボディをゆるく叩いている。