特に印象に残った本 2012 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

振り返れば1年はあっという間。

毎年かわりばえもせずにそう感じる。

けれども積み重ねてきたその1日1日はどの1日も他の1日のカーボンコピーなんかではなくてそれぞれがそれぞれなりに唯一無二のかけがえのない1日であったはず。

忘れっぽいぼくたちはその忘れっぽさゆえに気がおかしくもならずに気の遠くなるような長い道のりを歩いていけるのだと思う。

それでもときどきふとしたはずみに思い出す気がかりなことども。

幸福な気分の裏側に追いやって普段は忘れたふりをしている後ろめたさなど。

そうぼくたちはもうあの頃の無邪気な気持ちには戻れないのだ。

 

 

今年特に印象に残った本を思い出してみる。

 

 

 

★最も古代の日本の神々の躍動を思い知らされたのは

 

三浦祐之さんが訳と注釈をつけた

口語訳 古事記 〔完全版〕

 

日本人に足りないのはもしかしたら神話という物語かも

 

って思った。

戦中の思想教育に利用されて不幸な境遇におちいってしまったけれどもはじめて読んでみてその自由奔放で躍動感あふれる神々の描写にはびっくり。

イザナキとイザナミからはじまる神々の系譜。

カムヤマトイハレビコ(神武)までの神代篇しか実はまだ読んでいないけれども人代篇も必ず読むつもり。

 

古代と現代をつなぎそして未来へとぼくたちを導く神話の世界に驚喜する。

 

 

★最も言葉の美しさに酔い痴れたのは

 

ゲーテさんの

ファウスト

 

高橋義孝さんの訳にうっとり。

 

格調の高い文章。

名言、至言、箴言の宝庫。

再読ではあるけれどもあらためてその魅力の虜になりました。

世界文学。

 

美文でいえば

 

川端康成さんの

千羽鶴

シェイクスピアさんの

マクベス

も忘れてはいけません。

 

★最も特別な世界へぼくを連れて行ってくれたのは

 

カフカさんの

短編の数々。

 

掟の門

 

とか

流刑地にて

とか

変身

とか。

 

変身は

 

これまで愛読していた

高橋義孝さんの訳(ファウストと一緒だ!)

ではなくて

山下肇さんと山下萬理さんの訳で読んでみたのだが

こちらも良かった。

訳者のカフカ作品への愛が感じられる。

 

掟の門が法の門というかたちで審判のなかに盛り込まれていたのに気づいたのもうれしい出来事。(掟の門 あるいは 大聖堂にて

 

 

記事にはあげていないけれど

 

断食芸人

とか

判決

とか

田舎医者

とか

火夫

とか

独特の息苦しい世界観はぼくの好みに完全合致していた。

 

機会があれば再読して記事にあげたい。

 

 

★最も逆説的に希望の意味を問うたのは

 

ヴィクトール・E・フランクルさんの

夜と霧

 

現実路線という名の排除主義が拡大しはじめた今年。

 

被害者と加害者が容易に転換しうる危ういバランス。

いかなる苦難にあっても生命維持の免疫力を動物的に強めるのは希望をもつという態度であることを教えられた。

ちょっと斜に構えた感想ではあるがそれもひとつの読み方だといえるのではないか。

池田香代子さんの訳による新版で読んだ。

 

★最も辛らつに一流志向を批判したのは

 

織田作之助さんの

二流文楽論

 

織田作之助さんの文楽への愛を語るこの作品の前書きだけを読んだのだがここでは文楽というよりも文学というものへの厳しい批判がこもっていて印象に残った。

 

欧米基準の一流志向を捨てるところからあたらしい文学が生まれるのだ。

織田作之助さんがこの文章を書いたのは昭和21年の戦後すぐ。

66年経った現代でも日本の文学は一流志向の亡霊にとりつかれているのではないか。

世界文学は大きく変容を遂げようとしているのに。

 

★最も純粋に物語の魅力に触れさせてくれたのは

 

キアラン・カーソンさんの

琥珀捕り

 

正直なところ難解でたいへんな読書だったけれども読み終えたあとの達成感たるや格別だった。

 

音楽には何かをテーマにした標題音楽と音楽そのものをテーマにした絶対音楽というものがあるがこの物語はまさに絶対物語。

物語の物語による物語のための物語。

栩木伸明さんの訳で読んだ。

 

★最も大阪の「地」の力を感じさせてくれたのは

 

中沢新一さんの

大阪アースダイバー

 

南北のアポロン軸と東西のディオニュソス軸。

 

大阪の地で縄文の昔から連綿と続く変容と流転の正体を見抜いてくれた1冊。

大阪が大阪であるのはこういう理由だということを時間軸を飛び越えて示してくれる。

実はまだ第3部までしか読んでいないのだがおいしいものは少しずつ食べるのがぼくの楽しみ。

続きはまた来年。

 

★最も虚無とのたたかいを続ける勇気をくれたのは

 

高橋源一郎さんの

さよならクリストファー・ロビン

 

今年最後の1冊であったがあまりの衝撃に現在も再読中。

 

天馬博士とアトムとトビオのやりとりが静かでありながら背筋が凍るシリアスさ。

究極かつ忌避的な主題設定。

ぼくとしてはこれを退廃の美学と能動的ニヒリズムによる協奏曲と名づけたい。

虚無は呑まれるものじゃない。

みつめあうものだといいたい。

 

 

 

ほかにも折に触れぼくを生きさせてくれた作品たち。

 

 

 

ときに力強くときに儚くときに美しくときに純粋にときにばかばかしくときに哀しくときにやさしくときにあたたかく。

 

友人に薦められた作品、新聞の書評で興味を持った作品、書店でたまたま出会った作品、お邪魔したブログで紹介されていた作品。

 

手にとった理由はさまざまだけど確実にぼくにぼくだけの時間を与えてくれた作品たち。

 

1年前に変わらず今年もまた決して少ないとはいえない難題を抱えながらもどうにかこうにか笑顔でおだやかに迎えることができそうなおおつごもり。

 

 

ぼくの生きる世界を構成するすべての現象にありがとう。