真夏を思わせる鋭い陽射し。
肌をじりじりと焦がす。
首筋を突き刺されているようにも感じる。
日焼け止めのクリームを塗る習慣はないがやっぱり塗ったほうがよいのだろうか。
男も塗るのかな。
この陽射しは凶器だな。
買ったばかりのスニーカー。
デザインが気に入り足にもフィットした。
店内を数歩歩いたが歩き心地も悪くない。
前のは靴底に穴があくくらい履きつぶしついには雨の日に裸足で歩いたほうがましなくらいの浸水に見舞われたため買い換えたその店で回収してもらった。
上機嫌で靴店をあとにしたがしばらく歩いて奇妙な感覚に気づいた。
着地のたびにくるぶしのあたりが痛む。
ああこれは失敗したなと思う。
足の大きさが合っているからといって足のかたちが合っているとは限らない。
店内を数歩歩いただけでは気づかないものだな。
今さら引き返すのにも気後れするので仕方なくそのまま歩いていた。
あまりにも痛いのでこのままでは家までたどり着けないと感じ少し歩き方を工夫してみた。
なるべく靴がくるぶしにこすれないように意識した。
ああいい感じだ。
これならなんとか歩いて家まで帰れそうだ。
慣れてくると案外大丈夫かもしれない。
そう思いながらショウウインドウのガラスに映った自分の歩き姿をみて違和感を感じる。
変な歩き方だ。
ちょっとかっこ悪い。
くるぶしを気遣って歩くとこんなにぶざまな歩き方になるのか。
歩き方が靴に支配されていることを認識させられる。
いや歩き方だけではない。
もしかしたら行き先さえも靴に支配されているのかもしれない。
革靴では泥水のなかは歩かない。
ハイヒールでは山には登らない。
サンダルではホテルには入らない。
靴がぼくたちの行動を規定する。
そういえば安部公房さんに鞄という作品があったっけ。
靴と鞄という違いはあるけれど状況は似ているな。
いったいこれからぼくはこの靴に導かれてどこに行くのだろうか。
そしてぼくは靴とくるぶしがこすれるのを避けながら痛くないようにぎこちない足どりで陽射しの照りつけるアスファルトのうえを南に向かって歩いた。