悩んでいた
ビリーは悩んでいたんだ
オレはその姿を遠目から見ていた
ビリーが食堂の隅っこで思い詰めた顔をしていたんだ
ビリーは大好物のリンゴのタルトが目の前にあるのに
それには一切手も付けずに肩に重りを載せているかのようだった
「ビリー、いい加減そのタルトを食べなよ
せっかくマリーが作ってくれたんだからさ」
オレがこんな感じでビリーに声をかけても返ってくる返事は無かった
「すまない、テリー
いろいろと考えごとがあってさ
大丈夫だから、あんまり気にしないでくれ」
ビリーはそういって自分の部屋に戻った
もちろん、タルトはテーブルの上に残ったまま
オレはいつも以上のおいしかったマリーのタルトを
元気のないビリーに食べて欲しかった
だから、オレは持って行ったんだ、彼の部屋に
ビリーは自分の部屋でも同じ様子だった
「すまねえな、テリー」
そう言ってビリーはベッドの上で外をずっと眺めていた
夢想旅団の船は今雲の上を進んでいた
雲の下は海のはずだから、少し注意しないと万が一落ちてしまったら大変だ
テリーは真剣な眼差しでピカピカの床を見つめている
オレが持ってきたタルトにはもちろん口を付けないまま
「オレたちはどうして旅をしている?
オレたちはどうして地上を忘れてしまったんだ?
オレは昔の生活が嫌いだった訳じゃなかった
オレはこの空に自分の居場所を見出したかっただけだ
でもさ、この空にもオレの居場所は地上と同じようにないみたいだ」
「そんなことねえよ、ビリー
お前がいなかったらこの前の夜は乗り切れなかった」
「オレはただあの夜はたまたまあの場所にいただけさ
別に他のやつでもよかったんだ」
「そんなに落ち込んでないでさ、せっかくタルトを持ってきたんだからさ
マリーもビリーのこと気にしていたぜ」
「テリー、お前は自分の存在をどう思っている?
テリーはこの船では記録係としてきちんと役割を果たしている
それに、何よりお前がいなかったらこの船はしんでしまうことになりかねない
だけどだ、オレはお前と違ってあくまで清掃員だ
この船には清掃員なんてレオンでもできる
ただただ床を磨くためにこの船に乗った訳じゃない」
ビリーは難しいことばかりを言うな
オレはただただシンプルに生きたいだけなんだけどな
「まあ、そんなに思い詰めるなよ
確かにお前の仕事は誰にでもできるかもしれない
でもさ、今はお前がいないとこの船は機能しないこともある
存在なんてたいしたもんじゃないんだ
お前の存在意義は気まぐれですぐに声を求める
それはオレも一緒なんだ
だけどさ、お前がいないとダメだっていうやつもいる
マリーは自分が作った料理をビリーに食べて欲しいと言っている
マリーにはお前の存在は大切なんだ
お前の気が付かないところでお前の存在は生きている」
だから、そんなに落ち込んでないでくれよ
そんなことオレは言った時、ビリーはぼそっとこう言った
「自分の存在意義を見つけることは自己満、エゴなのかもしれないな」
オレたちはちょっと覚めたタルトを食べることにした