天国の手前に虹の橋がかかっている

  そのたもとに

  死んだ飼い犬の行く場所がある

  そこはあおあおとした草地で

  なだらかな丘があり

  犬たちは走りまわって遊ぶ。

  食べ物が有り、水があり

  日差しはぽかぽかあたたかい。

  老いて死んでいった犬は、若返る。

  傷ついて死んでいった犬の傷は、消えてなくなる。

  どの犬も、どの犬も

  昔のままにいきいきと

  強く、楽しそうに生きているのだ。

  夢に出てくるときのように

  過ぎ去った日々のように。

  ただひとつだけ

  どの犬にも気がかりがある

  会いたい人がいる、とても大切な人だった。

  でも置いてきてしまった。

 

     走りまわって遊ぶ日々がつづく。

  やがてその日が来る。

  一匹の犬が

  とつぜん立ち止まって遠くをみつめる。

  するどい目が何かをとらえたのだ。

  からだは喜びに震えはじめた。

  犬は群れから飛び出して走り出した。

  緑の草の上を

  脚がもつれんばかりに

  宙を飛ぶように

  はやく、もっとはやく

  「あの人」がいる!

 

      犬とあなたが再会した。

  あなたたちは

  むちゅうになってからみあう。

  もう離れない。

  犬はあなたの顔をなめまわす。

  あなたはその顔をなで、その目をのぞきこむ。

  あなたを信じきっている目だ。

  もう長い間これを見てなかった。

  でもけっして忘れてなかった。

  そして今

  あなたたちはいっしょに

  虹の橋を渡っていくのである。

 

 

       伊藤比呂美訳  よみ人知らずの英語の詩

                    「Rainbow Bridge」より