「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」 (光文社新書)という本が話題になっています。
カラー化によって、白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が流れはじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになるから、ということです。
たしかに、カラー化された写真をみると、そこに写されている人物が、グッと身近に感じられてきます。
ただ、いかにAIが優れていても、衣装の色までは判別できないので、人の記憶で補ってあげる必要があります。写真から色付けができるのは、自然界に普通にあるもの、といっても良さそうです。
明治30年代に、日本全国を回って機関車の写真を撮り、貴重な資料を残してくれたことでよく知られている岩崎・渡辺コレクションも、もちろん白黒写真です。
所蔵されていた交通博物館により、写真は台帳化されましたが、機関車の色についてのコメントは残されていないようで、黒以外に塗装された機関車があったのか、実際のところはわかりません。
おそらく、現在のAIでは、写真から機関車の色を割り出すことはできないでしょう。
ただ、古典機をつくる場合、詳しいことが分かっていないからこそ、想像を働かせて、自由に色を考えて、好きに塗ることができるという楽しみもあります。
もっとも、全くフリーハンドで好き勝手にする、ということではなくて、当時はイギリス、アメリカ、ドイツ等からの輸入機関車でしたから、メーカーのカタログ写真、同時代に作られ本国等で使われた仲間の機関車の塗装等をもとに、もしかしたら日本にも実在したであろう色を推測して、ある程度、自分の中で納得した上で塗色を決定するということになります。
このあたりは、光文社新書の戦前、戦中の写真集と同様です。
[深緑に塗装された6250形]
写真の6250形蒸気機関車は、トビー製品を製作者である故M先生が生前、深緑に塗装されたものです。
鉄道研究会の顧問をされていた先生が亡くなられ、奥様のご意向で、形見分けとしていただき、それからずっと大切にお預かりさせていただいています。
一口にグリーンといっても色々な色合いがあって、イギリス機の場合には、緑に白を少し混ぜた明るい緑になると思います。(機関車トーマスシリーズのヘンリーのような)
この機関車はもっと濃い緑色で、ドイツの王立バイエルン邦有鉄道の機関車の塗色に似ています。先生が統一国家前のドイツの機関車に造詣が深かったので、6250形も同じ色に塗られたのではないかと思っています。
実在しない、けれどもあってもおかしくない、と思わせる落ち着いた深緑の塗装で、しかも、空制化後の姿ゆえ個性的です。
実物の6250形は、イギリスから輸入された6200型を空気ブレーキ化に対応するため、改造工事を受け生まれました。
空気ブレーキとは、圧縮空気を動力源として制輪子を車輪に押付け,摩擦によってブレーキ力を発生させるシステムです。
1925年に、全国一斉に空気ブレーキに付け替えがされましたので、改造は、それ以降のことになります。
空制後の機関車は、極端なことを言えば、現代の貨車を連結させることも可能ですから、楽しみも増えるし、何よりもエアータンクやボイラー上を這い回るパイピングが賑やかで見栄えがします。
6250形は、N ゲージでも、トラムウェイから発売されていたようです。
その後、私自身は、この機関車の影響により、カラフルな機関車も好きになり、ドイツ型にも手を出すことになりました。
16番のメーカーの製品として、黒以外の色に塗装された模型について調べてみました。
有名なところでは、天賞堂のC59で、C5967はブラウンで79はグリーンで塗られています。どちらの色も地味な選択ですが、それでも当時の国鉄としては、目新しい試みだったのではないかと思います。
珊瑚模型の2120のうち、原型(空制前)タイプには、グリーン塗装の特製品がありました。スチームドーム 磨きだし 煙室黒、ボイラーバンド磨き出し、キャブとサイドタンクも、額縁状に金色で枠を塗装がほどこされていました。
額縁状の装飾は、フランスの機関車にもよく見られます。ただ、個人的には好みではありません。
マイクロキャストの4500形に、ボイラーグリーン、煙室部分のみ黒のモデルがありました。
4500形は日本初のマレー(BーB)式タンク機関車で構造的には興味深いですが、ほとんど活躍しないまま廃車になったそうで影が薄い機関車です。
色のついた機関車で、もっとも美しいのは、ムサシノモデルの6400形、原型 ロシアンブルー、煙室黒のタイプです。この機関車の美しさは格別で、ぜひとも手に入れたかったのですが、縁がなく未入手に終わってしまいました。
変わったところでは、nゲージ、マイクロエースが、今日1970年から71年にかけて、日立ポンパ号として全国を走り抜けたC1191を煙室扉 キャブ 屋根がブルー系に塗った奇抜な出で立ちで登場させています。
黒以外に塗装されたSLは、他にもあるかもしれませんが、それほど多かったとは思えません。
やはり、日本のSLは、黒がもっとも似合うし、多くの人々の記憶とも合致しているのは、間違いないことでしょう。