近世の小商人仲間には、それぞれに職分がありますが、他の仲間の職分と、はっきりと線引きができないケースが多いのが特徴です。
例えば、香具師に関していえば、芸能人としての側面では、乞胸とダブり、江戸で、争論を起こし、寛政年間に幕府の裁許を受けております。
本来的な彼らの職分である売薬に関しては、富山の薬売りと競合し、各所でもめたりしてます。
香具師は、他方では、御菓子や食べ物を露店で販売するのは、現在も、江戸時代も変わりません。(ただし、香具師は飴を本来の職分である薬に引っ掛けておりますが)
この点、香具師と御菓子屋さんである飴売り仲間との職分争いに関する以下の史料は大変貴重なもの。これは、飴売りが、香具師との争いを回避するために仲良くやりましょう、的な挨拶の見本ですね。逆に読めば、争いは不断に起こり得たことになるのでしょう。
一 香具屋中え御断り申し上ぐる口上
(飴売り仲間)連名之者はその子分たりとも、甚だ引合い出来兼ね候者もこれあるニつき、 連名書指出候節これをもって引合いになされ、ひとえによろしく御聞通し願いたてまつり候
木瀬屋友達中
弘化四年
未正月
香具屋衆中
(牛嶋英俊『飴と飴売りの文化史』所収、「商売神文之事」の奥書)
なお、越後を事例に飴売りと香具師との確執を活写した論文には、神田由築氏の「商いの場と社会」(『シリーズ近世の身分的周縁、4』(吉川弘文館) を参照されてください。