STAP細胞に関する事実の検証(第3回) | 藤巻隆(ふじまき・たかし)オフィシャルブログ

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STAP細胞に関する事実の検証(第3回)


連載は今回で3回目になります。
今までの内容で、疑問に感じたことや、
これは違うのではないかと思われたら、
遠慮なくコメントやメッセージで
お知らせください。




STAP細胞、失墜の連鎖 ③ 屈折


 同年(2012年)秋に京都大学教授の

 山中伸弥教がノーベル生理学・医学賞

 を受賞し、首相の安倍晋三が10年間で

 1100億円の予算投入を確約した再生

 医療研究。その大半を占めるiPS細胞

 研究だが、実用化には大きな壁が立ち

 はだかる。最たるものが安全性の問題

 だ。作製方法の改良から、iPS細胞の

 がん化リスクは発見当初より下がった

 とされるが、ゼロになったわけではない。
 

  (『日経ビジネス』2014.07.14号 P.050 以下同様)



 さらに、コストの問題もある。

 iPS細胞が威力を発揮する難病の多くは

 患者数が少なく、市場規模も小さい。
 

  (上掲誌 P.050)



 再生医療関係の政府有識者は

 「今の国の政策は、iPS細胞を使うこと

 に固執している。いったい誰のための、

 何のための医療なのか」といぶかる。

 iPS細胞研究に傾倒する国内再生医療

 の現状に、危惧を抱く研究者は少なくない。
 

  (上掲誌 P.050)



 2008年5月。文部科学省3階の会議室で

 開かれたライフサイエンス委員会の

 作業部会では、前年11月に山中が発表した

 ヒトiPS細胞の研究を、国家プロジェクト

 に“格上げ”するための計画が議論されて

 いた。
 

  (上掲誌 P.050)



 気まずい空気が流れたのは、議論が中盤に

 差し掛かった頃だった。委員の一人に名を

 連ねた理化学研究所CDB(発生・再生科学

 総合研究センター)グループディレクター

 (当時)の笹井芳樹が、文科省の提示した

 計画案に注文を付けた。

 「再生医療や創薬研究では、(分化後の)

 体性幹細胞やES細胞はほぼiPS細胞と

 同じものだ。そういうことに関して、

 全然触れられていない。もっと高所に立った、

 鳥の目が必要ではないか」。

 正面に居並ぶ文科省幹部を見据えながら

 滔々(とうとう)と話す笹井に対し、

 山中は机上の資料に目を落としたまま

 押し黙っていた。
 

  (上掲誌 P.050)



 出席者の一人はこう振り返る。

 「山中、笹井の両氏はいつも、会話はおろか

 視線も合わせずに帰っていった。笹井さんは

 自分の研究について全く明かさないし、

 当時から何かたくらんでいるような危険な

 においがしたよ」。
 

  (上掲誌 P.050)



 京都大学医学部を出た笹井は、ES細胞から

 神経細胞を作る研究で名を馳せた幹細胞の

 第一人者。京大が1998年に再生医科学研究所

 を新設すると、36歳の若さで教授に就任。

 国内再生医療の保守本流を歩んできたが、

 iPS細胞の登場で立場は一変した。
 

  (上掲誌 P.050)



 理研CDBが小保方晴子の研究ユニットリーダー

 採用を決めたのは、山中のノーベル賞受賞の

 興奮が冷めやらぬ2012年暮れだった。

 笹井がiPS細胞の凌駕に執念を燃やしたのは、

 山中に対する嫉妬心か、あるいはES細胞の

 研究予算削減への焦燥感からか。

 STAP細胞の蹉跌が示したのは、

 “オールジャパン体制”を標榜するiPS細胞研究

 の裏にくすぶる、研究者たちの屈折した心理の

 断片にすぎないのかもしれない。
 

  (上掲誌 P.050)

(敬称略)




<私の感想と考え>

今回の記事の中には、『日経ビジネス』の担当記者
の推測も含まれている個所があります。


表情や態度からだけでは、他人の心の中までを覗く
ことは困難です。


今回の記事の中には、STAP細胞の他に、
iPS細胞、ES細胞についての言及があります。


そこで、これら3つの細胞についての誤解がある
ので、先に指摘しておきたいと思います。


それは、決して「万能細胞」ではないのです。
マスメディアは、しばしば「万能細胞」と伝える
ことがありますが、間違いです。


事実、山中さんがiPS細胞と命名したのは、
「万能」では語弊があり、「多能性」としたため
です。


iPS細胞は、「人工多能性幹細胞」と日本語に
訳されています。Pはpluripotent(多能性)です。


iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)とは、
どのようなものなのか、
京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)のサイト
で説明しています。



 Q iPS細胞とは、どのような細胞ですか?


 A 人間の皮膚などの体細胞に、極少数の因子を導入し、

 培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に

 分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ

 多能性幹細胞に変化します。

 この細胞を人工多能性幹細胞 (induced pluripotent

 stem cell:iPS細胞)と呼びます。

 名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した
 
 京都大学の山中伸弥教授です。

 体細胞が多能性幹細胞に変わることを、

 専門用語でリプログラミングと言います。

 山中教授のグループが見出したわずかな因子で

 リプログラミングを起こさせる技術は、再現性が高く、

 また比較的容易であり、幹細胞研究における

 ブレイクスルーと呼べます。




iPS細胞の樹立



京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)から引用


このPはSTAP細胞でも同じです。

STAPとは、Stimulus-Triggered Acquisition
of Pluripotency cellです。

「刺激惹起性多能性獲得細胞」と日本語に訳されています。


iPS細胞については、下記のような記述がありました。


 発表に世界中があっと驚いたのは、

 いったん分化した皮膚の細胞を“初期化”して、

 心臓や神経など様々な細胞に分化できる「万能性」

 持つ細胞を作り出したからだ。

 翌2007年にはヒトのiPS細胞を作り出し、

 医療応用への道を開いた。
 

  (『iPS細胞とは何か、何ができるのか』 日経サイエンス編集部
  日本経済新聞出版社 2012年12月20日 1版1刷 PP.60-61)


もう一つのES細胞はEmbryonic Stem cellで、
「胚性幹細胞」という日本語に訳されています。


ES細胞については、下記の記述がありました。


 受精卵をもとにした胚性幹細胞(ES細胞)が、

 すでに開発されていた。受精卵が分割を繰り返し、

 子宮に着床する直前の胚盤胞と呼ばれる状態に

 なったところで内部の細胞を取り出して培養する。

 すると万能性を維持したまま、体外で長期間培養

 できるようになる。

 (中略)

 ES細胞は極めて有用だが、受精卵にはもともと、

 全身の細胞や組織に成長する能力が備わっている。

 そこから作ったES細胞が万能性を持つこと自体

 は、特に意外ではない。

 一方、山中教授らが作ったiPS細胞は、もとは

 マウスや成人の皮膚細胞だ。いったん完全に分化

 した細胞が、(一部省略)わずか4つの転写因子

 (遺伝子のオン・オフを調節するタンパク質)の

 遺伝子を導入するだけで、受精卵と同様の万能性

 を獲得した。 
 

  (上掲書 PP.61-63)


ES細胞は受精卵から作製するため、倫理的な観点から
問題がないわけではありません。



以上のような背景を考慮しますと、笹井さんが小保方さん
を前面に立て、STAP細胞の作製に並々ならぬ意気込み
を示したことは、理解できないことではありません。



STAP細胞の論文を英科学誌『ネイチャー』に発表後、
海外の研究者から「何度トライしても再現できない」
という指摘がされたことに、論文作成の天才と言われた、
笹井さんが切歯扼腕したことは想像に固くありません。



小保方さん宛の笹井さんの遺書の中の、
「STAP細胞を必ず再現してください」
という言葉にその気持ちが強く現れていると思います。






STAP細胞についての詳細は、
下記のブログをご覧ください(再掲)。


STAP細胞の作製に関するマスコミの対応について


この一連の騒動により、英科学誌「ネイチャー」
への掲載論文は撤回されました。


私はこのようになる可能性が高くなった時点で、
PDFに保存しました(再掲)。


参考までに下記のPDFをご覧ください。
もちろん、英文ですし専門用語だらけですので、
理解することは極めて難しいことですが、
参考資料として考えていただければ、
よろしいかと思います。


この論文の共同執筆者に東京女子医大の大和雅之
教授の名前があります。さらに2名のバカンティ氏
も掲載されています。


Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells
into pluripotency





第4回へ続きます。





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