引越したあの人は元気かな

郵便受けに、ガムテープが貼ってある。
窓は、シャッターが降りている。


"ああ、お引越ししたんだな。
そっか。話したことないけど、どうぞお元気で"

そんなことを思った。

顔も名前も知らない人。

でも、同じ時を過ごした人。


何も知らない人だから、
当たり前だけれど、特に寂しさはない。

それが知り合いであっても、
引越しには何故か、悲しさや寂しさという印象はない。


きっと、新しい土地への出発や、
新たな幕開けの印象が強いからだと思う。


あの人とは、
もう二度と会うことはないだろうけれど、
それでも引越しには、
どこか晴れやかな印象がある。


ふと、思いついた。

"そうか。別れもひとつのお引越しか。

関係性が変わるお引越し。

ステージが変わるお引越し。"


そう思うと、別れという言葉の
重さや湿度が抜けて、

新しい場所へ行ったから、
そこで元気に過ごすのだろう。

と感じやすくなる。


あの人との別れも、
あの人と離れたことも、

お互いの人生のお引越しをしたのだ。

ああ、どうぞ、お元気で。