今は世界線が違う人

電車に乗っていたら、隣に座ってきた人がいた。
昼下がりの平日。

乗る人は、まばらだ。

たまたま、その人の声を聞くことができて、
「あれ…この声は…」と思った。

"きっと、前の職場の人の○○さんだ"

髪とマスクで顔がほぼ隠れているから、
もしかしたら人違いかもしれないけれど、

降りた駅や雰囲気、
あと、声でわかった。多分、当たってる。

相手は、気付いていない。

声を掛けようかどうか迷う。

たかしが降りる駅まで、あと15分くらい。

なんで声を掛けようか。
それとも、相手は気づいていないから、そのままにしようか。

と、迷う。

迷っていると、駅に着いてしまった。

最後までこちらには気付かず、
颯爽と降りていった。

もし、今も交流がある人だったら、
きっと人違いでも声を掛けていたと思う。

でも、この人は、もう連絡を取らなくなって久しい。

そして、隣の席で気付かれないということは、
それだけ、たかしの雰囲気や印象が、
あの頃と変わったのかな、とも思う。

だから、きっと今は違う世界線を生きている人なんだと思った。

あなたが生きる道と、
わたしが生きる道。

もしかしたら、またどこかで交差するかもしれない。

けれど、今回はそのタイミングではなかったんだな。

そう思って、去る背中に、

"元気な姿が見られてよかった。
これからも、元気で過ごしてね。"

と心の中で声を掛けた。

肩の力が抜けて、息を吐く。
なんだか、少し笑顔になった。

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