その頃、埼玉県警では このヤクザの事務所で起きた不可解な事件に頭を悩ませていた。







「川辺さん!!」







「おっ なんだ 林か…」





川辺紘一(仮名)42才。

この事件を担当する腕利きの刑事だ。




林智徳(仮名)28才。

川辺をサポートする警視庁から県警に異動してきた若い刑事。






「川辺さん ダメです… 目撃者見つからないです…」







「そうか……

しかし… 中学生がヤクザの事務所にかち込みかけるってのがどうにも信じられんなぁ…」

川辺が言った。







埼玉の大宮で起きたこの事件は瞬く間にニュースで取り上げられた。



学校付近では沢山のマスコミが生徒に取材をしに来る程だった。








「しかし 川辺さん…一人助かったあの中学生の意識が戻れば全て解るんじゃないですかね??」







「そうだがな……

何とも言えない嫌な予感がするんだよ…」







「おっ 刑事の勘ってヤツすね?」

林はおどけてみせた。





「ったく……

よし…

とりあえずあの事務所の頭やってたヤツ聞き込みだな。」


川辺はいつもと違う何かに気づいていた。


長年刑事をやっていて殺人事件は初めてではない…
しかし、この“奇妙”な事件に首を傾げざるをえなかった。



まず ビルの火事が消防隊によっておさまった後の光景…

あれだけの火が出ていて 全員に火傷の跡が少しもなかった事。


そして凄惨な殺しあいを想起させる大量の血…


中には中学生が三人もいた事…。




全てを頭に入れても入りきらない“何か”を川辺は感じていた。






その日の夕方、任意で組の頭だった拓郎が呼び出された。





取り調べには川辺と林があたった。







「川辺さん、 ヤツの事調べたんですが… … 謎が多いんですよ…」
林は持っているファイルを見ながらそう川辺に話した。






「 謎? ヤツの名前は聞いていたが 最近だな名前を聞いたのは… 」






「はい…… でも前(前科)がないんですよね…
それに……」






「それに?」







「いや、 出生が不明なんですよ…

親に捨てられたんですかね?

施設を転々としていたらしいですが……」






「ん…まあいい… とにかく、あの日ビルにいたのは確かだからな。
組の前に停めてあるヤツの車を見てる目撃者がいる。
何かわかるかもしれん。」






「そうですね…」







そうやりとりをして 拓郎のいる部屋の前に立った2人。






そして1人の刑事がまず気づいた。






「……っ…… 」








「どうしました川辺さん?」








「…いや、 これは……」







「??ドア開けますよ!」


林は構わず拓郎のいる部屋のドアを開けた。







古い机に肘をつき、拳の上に顔を乗せた男…







拓郎を見て1人のベテラン刑事は感じたという……













「コイツは……

人…ではない…」と。












続く。