“決行日”大宮駅についた俺は待ち合わせ場所にいたアキラに声をかけた。





「アキラ!」






するとアキラの様子が何となくおかしい。




「うおい! 大樹!! 全員殺す 殺す 殺すぞ!!」






「なんだよ すげーハイテンションじゃねぇか…」





するとアキラの後ろにいたヒロが現れ 手を差し出した。





「これっすよ これ!」





ヒロの手のひらにあったものは“ハルシオン”。

酒と呑むとかなりのハイになる睡眠薬だ。




よく見るとアキラは片手に缶ビールを持っている。





「大樹も飲めよ!」アキラが言った。





「いや、俺はいいよ。 大丈夫。 落ち着いてっから。」





昨夜の夢…




いや 夢ではなかった?。




夢か現実か…“人ならざるもの”を俺は見た。





今日、何か… 特別な何かが起こる予感。




背筋がゾクゾクとする感じ…


俺は ヤクザの事務所に殴り込む、という“普通なら”とんでもない緊張感を感じるのに、 緊張感は全くなかった。





「いやあ
先輩、全員ぶち殺しましょうね!!ノリノリ、アゲアゲっすよ!!!」

ヒロもかなりのハイテンションだ。





薬物でもやらなきゃやってられないぐらいの事をするのだから。






刀はそれぞれバッグなどでカモフラージュしている。





「おれ でけーバッグ見つかんなくてこのまま持って行こうかと思ったぜ!ガハハハハ!!」

アキラが言った。





ヒロもつられて笑っている。





街は日曜日。


買い物などで凄い人混みだ。



学校では斎藤が“消えた”と噂が広まっていた。



消えたというより“消された”のだが…




駅を出て 大宮にある一番栄えてる通りに入る。




その先に事務所がある。




俺達は3人共、深く帽子をかぶった。




「よし、スプレー出せ。」
俺がヒロに言った。




「ウス。」




ヒロがバッグからヘアースプレーを出す。




「まずヒロがこれを “見張り”にかけて 俺達が斬るぞ。」





「おう!」

アキラは薬で妙なテンションだが “仕事”はちゃんとできそうだ。








カラオケ屋…



居酒屋…



クレープ屋…



コンビニ…



ゲームセンター…



喫茶店…


もう見る事がないかもしれない景色を目に焼き付ける。






「あそこを右に曲がったところだな…」




「先輩、ちょっと覗いてきます!」

ヒロがそう言って事務所の様子を探りに行った。



「見つかんなよ!」
アキラが言った。







ここから一歩進む毎に 何か“異質”なものを感じはじめた……






「ザワザワ……」





「? 何か聞こえる……」




「大樹!お前何言ってんだ?」





「いや… 何でもない…」





だが確かに俺は“何か”を感じとっていた。





あの感じ……

枯れた声の持ち主…

あれと対峙した時の…






「先輩! 入り口に2人います! 拓郎の車もありました!!」

ヒロが戻ってきた。




「よし、いざ出陣ってか!!」




アキラが刀を取り出した。





俺もバッグから刀を取り出す。





バッグを電柱の裏に起き、刀を背中にさし隠した。





「ヒロ、わかってるな…」





「任してください。」





ヒロはヘアスプレーを片手に先頭を歩き出した。





左手には刀を持ち。




通りを曲がり、30メートル先のビルの前に見張りが2人立っている。





「気づいてねえな…」




2人はタバコをすいながら談笑している。




俺達2人は背中の刀に手をかけ、刀を抜く準備をする。





「あの、すみません。」


ヒロが2人の見張りのヤクザに言った。



2人が

「ああん?」

と睨みつけきた瞬間、ヒロがスプレーを2人の顔面に吹き付けた。





「ぐわっ!! こらってめえっッ!!!」







高鳴る心臓の音…





心に蘇った“あの”映像。




アキラが刀を抜き、





片方の若いヤクザの腹を横から斬り裂いた。





「ザシュッ!!!」





俺はもう片方のヤクザの腹に突き刺した。





「ズブッ!!!」







声も上げずひざまずき…




2人は自分の鮮血の上に倒れた。






「やった……」
アキラとヒロが呆然としている。




俺はアキラの背中を思い切り叩いた。





「行くぞっ!!!」





二階に拓郎がいる。





そして耳障りなざわつきは更に強くなってきた。





死体を駐車場まで引きずり込んだ。


血の“道標”を作りながら。







「…全員… そう…
全員ぶち殺すんだ…」

アキラが刀を強く握りしめ言った。






俺達は



ビルの階段を…






いや…






地獄の階段を上っていった。









続く。