バイクを走らせ10分のところの人気のない工場に落ち着いた。







「大樹、 何やってたんだよ!捕まったかと思ったぜ!」

アキラが言った。





「いや ごめん‥ ジジイが変な事言い出したからさ… いや、本当にごめん‥」






俺は店のオヤジに言われた事を2人に言えなかった。





ヒロが

「先輩、暗いっすね…
まあ ヤクザの事務所に殴り込みに行くの考えたら気が重いっすよね…」
と言った。






「いや、そうじゃなくてさ…

まあ いいや それより刀は?」

俺は話をそらした。




アキラが刀を突き出した。



「ほれ」





「うわっ 重っ!!」

俺は意外な重さに戸惑った。





「これで 拓郎をぶった斬ってやる!」

とアキラが刀を振り下ろした。






「うわっ 先輩危ないっすよ!!」
ヒロが言った。






刀を持った瞬間、俺の全身に“あの時”よりも強い緊張が走る。





「… まさか こうなるとはな…
でもアキラ…
刀の他にも武器が必要だろ。
アソコの事務所の入り口には絶対2人は“見張り”がいるぞ。」






「うーん……

ああ 俺考えたんだけど ヘアスプレーを、まず見張りにぶっかけて 速攻 ぶった斬ればいんじゃねえか?」

アキラが提案した。




「なるほど!さすが先輩! とりあえず2人は殺れますね…」
ヒロが手を叩きながら言った。






「つーかよ…

みんな わかってんのか?

相手がヤクザでも人を殺すんだぞ…?

成功しても俺達は捕まるんだ。

もちろん 失敗したら 必ず死ぬんだぞ。」

俺は緊張感のない2人を見てそう言った。




アキラが返した。


「わかってるよ!! 俺は両親もいねーし 、兄弟もいない。無くすもんなんてねーからよ! ノリはやったんだ。
俺も続く。
死んだら死んだだ。」
と今までにないくらいの悲壮感溢れる表情で言った。





アキラは両親に捨てられ親戚に引き取られた。
親戚中をたらい回しにされ 相当な苦労をしてきた。

“周り皆敵”

のような考えを持っても仕方ないような環境で生きてきた。




ノリとヒロの親も片方が蒸発し、醜い家庭環境だった。




“類は友を呼ぶ”

とはよく言ったものだ。






「先輩、 俺も最後までやります。
俺は兄貴の意志を継ぎます。
自殺した吉川とも……」
ヒロが言葉を詰まらせた。





「おまえ 吉川沙織と仲良かったの?」

と俺は聞いた。






「いや‥
仲良かったっていうか…
付き合おうか…っていう話までいってました…
だから俺は必ずあいつらをこの世から消します。 」






「そうだったのか…
ヒロ、残念だったな…」
アキラがヒロの肩を叩いた。






皆が皆 それぞれ強い思いを抱いていた。





俺も覚悟は出来ていた。




俺達を罠にしかけた拓郎とユミには自分でも恐ろしい程の怒りを感じていた。





しかし…




骨董屋のオヤジが言った言葉。





絶望が待っている…



絶望の先の先…





絶望とは……

死?…



俺は死ぬのか?




様々な思いが頭を巡る。





しかしもう後には引けない。



俺達は復讐劇の始まりの鐘を鳴らしたのだ。







「さあ‥ 後は 決行日だな。」

俺は2人に問いかけた。






「うん‥ 日曜日…やるか? 」

アキラが言った。




「俺はいつでもいいっすよ。今からだってOKです!」

ヒロが言った。







「日曜日か…。

よし、日曜日の午後3時。

やるぞ。」






「よし、日曜日な。」




「ウス。」






決行日を明後日に控え俺達は帰路についた。




刀をそれぞれ持ち、頭でイメージする。



殺される前に。




必ず殺す。





拓郎達をこの世から抹殺する。





土曜日になり、思いは募るばかりだ。




そして土曜日の夜。俺は刀を持ち、近くの田園を抜け誰もいない通行止めの道を歩く。






当たりを見回し 刀を抜く。





剣道とは違うが“人を斬る”イメージは出来ていた。





目をつぶり、刀を振る。




人が倒れていくのが見える。






「よし、殺れる。」





俺は確信した。





目を開け刀をさやに戻す。




「ガチャン」





明日に備え帰ろう。



と、その時だった。





「ピカッ!!!」






俺の顔を何かが照らした。




「うおっ!! なんだ!?」






俺を照らしたものは…

人?



「?? 誰だてめえっッ!!!!!」




俺は刀を抜き構えた。




光は薄れ、人が立っている。




いや‥



浮いている?




目の錯覚か?。





俺は “人ならざるもの”を感じ“それ”に斬りかかった。






「バシュン!!!」




斜めから振り下ろし 何かを斬った感触があった。





「ドンッ!!!」




俺はすぐに“それ”に突き飛ばされた。





「グッ いてえな… てめえっ なんなんだよ!!」






よく見ると“それ”は人の形をしている。



そして真っ黒な何かをまとっている。





顔はまとったもので見えない。


まるで映画に出てくる魔法使いのようだ。




そして“それ”が俺に枯れた声で言った。






「フッ… 人ならざるもの…
その通りだ。


警告だ。


明日、お前達を待つのは“暗黒が生み出した絶望”。


憎しみが更に暗黒を漆黒化し、血で贖う事になる。


人間達への警告は度々にしてきたはずだが

少々の人間しか耳を貸さなかった。 」







「おまえ 骨董屋のジジイか!!??」

俺は恐怖でそう言うのが精一杯だった。




「… 人を通じ 警告をしてきた。

お前も警告を聞いた人間の一人だ。



終焉は始まりを生む。



お前達はその犠牲者だ。



そして……



お前は信じがたし光景を目にするだろう。


神への…


自然への…


人間以外の生き物への…




畏敬を無くした人間達にお前が行うのだ。



全ては混沌の渦の流れにある。



渦には“闇からの遣い”が送り込まれる。



闇を照らすのは……



お前が明日、見ればよい…





思い知るがよい。

身を以て…



お前が正常にいら…

れ……




“それ”が俺に近づく。
















「ウワアアアアアッ!!!!!」



俺は恐怖からの解放と共に叫んだ。






「…!? えっ? 夢!?」





俺は刀を握りしめたまま自分の部屋にいた。






汗だくになった体…




「なんだよ… 夢かよ…」



時計は朝の5時を指していた。





「…ハァ … …

!?」






部屋の片隅に何かがある。





「…これ……!」






部屋にあったのは




夢であったはずの枯れた声の…



まとっていた黒いものの…





切れ端だった。









続く。