「おい 杉山! どこだ?」


斎藤が大きい声で言った。





ユミが歩み出して

「先生… ここです…」

と言った。






「なんだ、こんなところに呼び出して。体育倉庫室に来い。」
と斎藤はニヤリと笑った。






その時、斉藤の後ろにいた俺がまず飛び出した。





「おい!!!」






斉藤は目を丸くしている。




更に反対側からアキラとヒロが飛び出した。





ヒロが斉藤に殴りかかった。





「ドカアッ!!」





斉藤は殴られた勢いで真後ろに吹っ飛んだ。





「な、なんだお前ら!!??」





斉藤は現実を把握できてないようだ。






「てめえのやってきた事、わかってんよなあ!? てめえみてえなクソ野郎には死んでもらうよ。」
アキラが冷静な面もちで言った。






そこから壮絶なリンチが始まった。






骨が軋む音が良く聞こえる。





斉藤は殴られ、蹴られ、額を石で割られ、大流血だ。






「グワッ もう 勘弁してください! ハァハァ 助け… 助けて下さい!」




許しを乞う姿に教師としての威厳など微塵もない。





「許して下さいじゃねんだよ!!自殺した吉川の敵だ!!」


ヒロはそう言って 再度 斉藤の頭に石を殴りつけた。






「ブシュウウウッ!!!!!」





斉藤の頭から血が噴き出した。





斉藤はひざまずき 目が虚ろだ。




「ングゥ…… ハァハァ… グゥ…」





俺はトカレフを握り斉藤に銃口を向けた。




斉藤は拳銃に気づき、


「ヒエッ…グ…やめて… ゆるひてくらさい……」


歯が全て折れてるようだ。





「てめえ… これで楽にしてやるよ…!」
俺はそう言ったが、引き金を引く時…


心に神と悪魔の分身が葛藤し始めた。






「殺せ!! お前の罪もコイツの命を持って贖え!」







「生かすんだ。 罪を犯しても殺す事はない。」







光と闇が…





聖と邪が…





喜と悲が…





良と悪が…





混沌とした精神に、ついて離れない亡霊のように透明な“産物”となり巣くいはじめた。






「大樹!!」


アキラが叫ぶ。






「先輩!!!」

ヒロも……






ユミは“ただ”見ている。





俺の手が震えはじめた。




斉藤は血だらけでへたり込み、俺を見ている。





「俺には亡くすものなんてない…」




不安定な家庭環境、自分の心の寄りどころを汚された悲しみ、親友が犯した大罪……





悪魔が囁く…





「殺せ…… お前は全て、全て無くすんだ。
悲しみや憎しみや怒りに身を委ねろ…
殺せば世界が変わるぞ……
お前が求めていた世界に…

神などいない…

あるのは拭いきれない“悲しみから産まれた憎悪の糧”だけだ……

さあ、 殺せ……」






俺の指が動いた。
























しかし…


俺は殺せなかった。



「もういい… 終わりにしよう… ノリ…ごめんな…本当にごめんな…」






俺の目から涙が溢れ出た。




全ての悲しみが流れ落ちるように…


できればこれからは心から笑いたい。


憎しみに生きる人間に楽園なんてない。




「アキラ、ヒロ… もう十分だろう?」

俺はアキラとヒロに問いかけた。




アキラとヒロが黙ってうなずいた時……







「パァンッ!!!」






物凄い音が響いた。






「!!!!!」







「ドチャッ……」






斉藤が完全に地面に崩れ落ちた。


頭部が破裂している。






「おい!!大樹!! あれ!!」







向こう側に誰かがいる。





よく見ると拳銃を持っている。





斉藤を殺したのは……








俺達が慕っていた拓郎先輩だった。











続く。