叫び声は



道場中に響き渡った耳をつんざく声。





畳の上には村上さんが“嫌いな人”が横たわっていた。




どうやら 腕十字で脱臼させたらしい。




皆が見ていた“惨劇”は、一瞬だった。



これは道場内だから許される(?)ものであり、一歩間違えれば傷害事件になりかねない。





俺はこれを見て “強ければ何でも許される”…… と勘違いしてしまう。




格闘技は良くも悪くも毒になる。





時は経ち、寝技にもだいぶ慣れてきた頃、どうしても超えられない壁があった。




小路さんといくらやっても勝てない。




小路さんは柔道部の頃から寝技が得意だったらしい。




「小路さんと同じ練習してたらいつまでも追いつけないな…」


といつも思っていた。



そんな時 目についた格闘技雑誌の記事。



そこには 高田馬場にあるスポーツセンターで練習している“菊田軍団”の記事だった。




いつも 久保社長が言っていた言葉を思い出す。



「今 練習しなくていつやるんだ!?」






全くもってその通りだ。



柔道、レスリングどころかまともに格闘技なんて続けた事がない。



いわゆる“バックボーン”がないのだ。




「よし 自分からお願いしに行こう」




俺は日時を雑誌で確かめ、単身 新宿スポーツセンターに乗り込んだ。



「断られたらどうしようか」




「壊されたらどうしようか」





様々な気持ちが交錯する。





高田馬場の駅を降り

新宿スポーツセンターまで歩く。




15分くらい歩いてやっと到着。



武道場のある場所までエレベーターで上がる。



「来てしまった。」



何のつてもなく俺は練習をお願いしにきたのだ。








しかし…


武道場には誰もいない。



「あれ?間違ったかな…」




俺はエレベーター入口まで戻った。




エレベーターの前に来た瞬間、雑誌でしか見た事のなかった“あの人”が偶然降りて来た。








続く。