宇野さんの様子がいつもと違う。



試合当日、リングチェックがあり控え室 にあるモニターで一瞬リングサイドが写った。


「あっ〇〇さんだ!」


お世話になっている超敏腕ブッカーの方がリングサイドにいるのを見てすぐにリングに向かった。




ブッカーの方に挨拶をして、談笑を始める。



リングでは外国人選手らがリングチェックをしている。



その中に 青木もいた。


別にリングチェックなんて軽いアップだ。


俺がボケーッとリングを見ていると ドリームのお偉いさんが

「高瀬、ちょっと 悪いんだけど…」


と言ってきた。



どうやら 宇野さん側にいる俺に気付いた青木が、リングチェックを見られるのが嫌だったみたいだった。



「そうか なるほど」


空気を読んだ俺は リングサイドにいた 悟やヤスミに軽く話しをし、中井先生に挨拶をしてリングサイドから引き上げた。


選手はみな ギリギリのところで戦っているのだ。



青木からしたら宇野さんは強敵だろう。試合前の選手と一緒の部屋にいるのもイヤだ、という選手もいる。青木には青木なりのスタイルがあるんだろう。


控え室にもどり、宇野さんの様子を見に行く。




表情は変わらない。



試合が始まり 宇野さんもアップを始める。


動きはいい。



さすが宇野薫だ。




試合が近づく。




試合前に宇野さんをリラックスさせるため 呼吸をしてもらう。

宇野さんが


「高瀬、やろうか」


「まだ 早いですよ。」


セコンドの方達も
宇野さんをたしなめる。




宇野さんは完全に焦っていた。



70キロ世界トップグラップラー青木真也の存在は勿論。


いつもそばにいる守山さんがいない、という強大な現実。




俺は


「まずいな…」


と思わざるを得なかった。




宇野さんの呼吸がいつもと違う。



ネガティブな感情を出し切れずに宇野さんを送り出してしまった。




俺はセコンドではない。


光岡さんとリングサイドから離れた所で座って見守っていた。




そして

運命のゴングが鳴った。







続く。