縁は 人と人を紡ぎ出し過去と現在(いま)をも紡ぎ出す。


ショーンは言った。


「前にロスでヒクソンがやったブドーチャレンジで高瀬を観てたよ!」



ブドーチャレンジ……



俺がJロックを辞める寸前にあった柔術の大会だ。
錚々たるメンバーが出場していた。


日本勢は 俺に 青木真也 小室宏二 そして亡くなられた小斉先輩。

ブラジル勢は ジャカレイ レオジーニョ ビビアーノ 他 世界トップの寝技師が集結した大会だった。


しかもショーンはヘンゾグレイシーと一緒に観戦していたらしい。



「なんだ あの時 ショーンいたんだ!」


俺とショーンはすぐに仲良くなった。



喧一さんが


「大樹 明日 ゴールドジム原宿で ショーンに技術習うから お前も来いよ!」


と言われ


「もちろん行きます。」

と答える。


ショーンの寝技はグレイシーの技術で最新の技術もあるという。


久しぶりにワクワクする気持ちを抑えきれずにいた。


当日、 喧一さんはビデオカメラを用意し 万全の技術収集をするつもりでいた。

社長に恵比寿の高級ホテル ウェスティンホテルに泊めてもらっているショーンは 人柄もあり 色々な技術を教えてくれた。


俺が習いたかったのは
いつもやられる事はないが、もし三角締めにかけられた時や マウントポジション(馬乗り)になられた時の逃げ方だった。

ショーンに問うと ショーンは

「OK 簡単だよ」


と すぐに教えてくれる。

マウントポジションのエスケープの仕方には驚いた。


「え? こんな返し方があったの? 」


という感じだった。



正に最新の技術。


喧一さんも色々な技術を聞いていた。


そんな時喧一さんが


「ショーン 大樹をパスしてみてくれ」


と言った。


喧一さんはショーンと俺がどっちが強いのか 知りたかったみたいだ。


正直 負ける要素はない。
体重も俺の方が上だし フィジカル的な差は確実にあった。


俺は ビデオカメラがまわってる前で負けるわけにはいかなかった。


ショーンが


「OK パスガードね」


俺はショーンを引き込んだ。


社長と喧嘩一さんが固唾をのんで見守っている。



選手というのは、練習で自信を付け試合に望むのだ。

練習で自分の成長や強さを感じとれなかったら試合など到底出れないだろう。


吉田(秀彦)さんが前に

「練習でやった事が試合に出る」


とおっしゃっていた。


練習で足関節ができないのに試合で出来る訳がない。

練習で裸締め(後ろから首を絞める技)ができないのに試合で出来る訳がない。


例えもしできたとするなら それは “まぐれ”にすぎない。


“まぐれ”は何回も起こらない。

俺はここでショーンを圧倒すればまた更なる“自信”を手に入れる事ができる。


だから 持てる全ての力を出した。

練習と試合は違う?

練習と本番は違う?

練習と本番が違うのは相手が“攻めてこない”時がある事だ。
練習で“攻めてこない”ヤツはあまりいない。

だが試合になると、勝ちたいが故に守りに入る選手は沢山いる。

俺もそういう選手と何回も戦ってきた。



顔がそこにあって殴るのは難しい事じゃない。


しかし 関節技や パスガードや 締め技は かけるのには“勇気”がいる。

その勇気を養うには練習しかない。



俺は全力で
緊張感の中

ヘンゾグレイシー門下生の黒帯グラップラーと対決をした。





続く