カーロス戦は 本当にやっちまったって感じだった。 昔のカーロスとのスパーでカーロスをボコボコにしたのは久保社長のおっしゃった通り 必要以上の警戒を生み出してしまったのだ。

試合が終わって 榊原社長には叩かれるわ 散々だった。 もちろん判定狙いのカーロスには何のお咎めもナシ。

ただ これだけは言っておく。 やはりそれは俺が“可愛がられてない選手”だからなのだ。
プライド側から可愛がられていたら どんなに負けようが、ツマラナい試合をしようが 何度だってチャンスはある。
愛情をウケている選手は相手にも恵まれ 上手くプロデュースしてもらえる。 俺の周りにもそういう選手がいた。 そういう選手は次第に自分の実力だと勘違いし始め、人間的に変わってしまっていくんだよね。 俺の周りの人間も「〇〇さん、本当に変わりましたよね…」って悲しそうに言っていたのをよく覚えてる。 バーターで出場したり“可愛がられてる”選手は ツマラナい試合をしても ちょっと良いところがあれば誉められる。 しかし俺みたいな“可愛がられてない選手”は カーロス戦のたった一回の試合で もうどん底に突き落とされるのだ。
案の定 しばらくチャンスがなかった。

そして上か来たのが「打撃で打ち合え。お前はもう貯金がないんだ。勝ち負けじゃないんだ。」という予想内のお言葉。

そんで俺は知人に紹介してもらって都内にあるボクシングジムに初めて通う事になった。
当時アマチュア最後の大物と言われた現WBCランカーの内山高志がボクシングを教えてくれるようになった。
この内山高志、マジでめちゃくちゃ強い。最初吉田道場でマススパーをやった時 軽いボディブローで悶絶した(笑)。
「この世にこんな強いヤツがいるのか」と思ったくらいだ。
その内山にマンツーマンで教わり都内のボクシングジムにも通った。 2ヶ月くらいたって それなりに上達した俺は 社長に「打撃で打ち合えるようになったら試合を榊原さんにお願いするからな」と言われ、俺は試合がしたいがために焦って「そろそろお願いします」と言ってしまった。
上からのお達しは「寝技に行くな、打ち合え」というものだった。
練習でも練習仲間から やはりタックルのあたりが弱くなっていると指摘されていた。 ようは急に打撃に力を入れすぎたため組技の力が落ちていたのだ。 でも打ち合えば次があるのかと思っていた俺は たった2ヶ月特訓しただけで 次の武士道のチャンスを頂いたのだった。
相手は 「ダニエルアカーシオ」 当時ブラジルで猛威を振るっていた強豪選手だ。 これは強敵だと思った俺は 社長に体重を合わせてもらうようにお願いしたのだが あまり良い返事は返ってこなかった。 可愛がられてる選手はここで総合の弱いK-1選手とかを当ててもらえるのだが さすが“可愛がられてない選手”の俺には日本では無名でもかなり強い…という選手を当てられるのだった。 今、戦極に関係している坂田さんにも「マッチメイクを見れば可愛がられてないってのが良く解るよな」と言われた事かある。
そう 可愛がられてる選手は負けたり印象の悪い試合をした後は 金魚と言って 勝てる相手を用意し、そこでまた生き返らせる、という手段が用いられるのだが 俺はね…可愛いがられてないからね。 うん 仕方ないよね。
体重の事をお願いしたあまり 社長から「だったら最初からやるんじゃねえ!」と電話をガチャンと切られてしまったが 榊原さんの次に偉い方が体重は合わせるからと言われた。 でも今考えると当時は84キロしかない俺と100キロ近くから落としてくるアカーシオじゃ 試合当日 体が違ってたんだろうね(笑)

そして試合当日、 自分の得意分野を怠っていた俺に まぁ 手痛い制裁が下るんだよ。

とにかく体が一回り違っていた。だけど 俺の左ストレートはまたしても何回かヒットした。
でもたった2ヶ月特訓ぐらいじゃ それが精一杯。 立ってるだけでなれないためスタミナもなくなってくるし お客さんから「高瀬タックル!」って聞こえて 「ああ 俺に打撃でのKOなんて望んでねぇよな」と思いタックル行くんだけど スピードが落ちてるから全部切られる始末。 打撃ばっかりの練習でバランスが完全に崩れていた。
組んでからの投げも出なかった。 練習してないから出ないのだ。
チョークを極めるチャンスもあったが凌がれた。
もう 立ってるだけでどんどんスタミナがなくなっていき 何度も頭を蹴られたっけ。 1ラウンドの中盤にはコンタクトも両方取れ もうパンチも見えない 距離が掴めない。 2ラウンドには目が慣れてきたと思ったが体がクタクタ。
「ああ 普通に寝技で極める練習しとけば良かった…」
試合中に思ったぐらいだから相当だろう(笑)

結局2ラウンドで蹴られて動きが悪くなって試合を止められた。

打ち合いもしたし 中途半端な組技もしたし という何とも情けない試合だったよね。

でも何故か社長は好意的に受け止めてたんだよね
それは……

続く