カナダでの虐待と発達障害への対応(その4



 前回のブログでは、どのような子供が虐待されやすいか、どのような親が虐待する可能性が高いかを書きました。


 カナダでは、発達障害であろうと、普通であろうと、子供の頃に「継続的、暴力的な」虐待、ニグレクト、いじめにあうと、その子供が人格障害を起こし、そして大人になって虐待をする可能性が高いという前提で対応しています。いわゆる、虐待の連鎖を防ごうというわけです。



●4歳未満で200万円の支給

 まず、カナダでは、子供が4歳以下で「発達障害」だと診断されたら、その家庭に年間約200万円が支給されます。そして、このお金で母親にパートに出ないで子供のケアをしてくれといいます。また、このお金で発達障害のケアの専門家を雇って、正常に育つように指導します。


 発達障害の子供たちを仮に「少数派」と呼び、それ以外の子供たちを「多数派」と呼ぶことにしましょう。この少数派は、多くの子供たちが問題なく行っていることを、自分たちができないことを「知っています」。つまり、親や先生の指示通りに行動しないのではなく、行動できない。つまり、どうしてもできないのです。しかも、それを知っていて「自分が悪い」と思い悩んでいるんです。


 だから、カナダでは、いろいろな問題行動があっても、決してだらしがないとか、反抗的だと考えないで、それをそのまま受け入れることから始めます。そして、その前提で、教育がスタートします。


 日本人の「愛のムチ」のように、「この子は、強く言わないと気が付かない、時には殴らないとわからない」というのとは全然異なります。この子たちは、わかっているんです。でも、できない。だから、専門家を雇って教育するんです。


 ここで1つのエピソード。北京オリンピックの水泳の短距離の選手でマイケル・フェルプスという人がいましたね。この人は、あまりにも多動性(たとえば、あっちこっち動き回って落ち着きがない)がひどくて母親が専門医に診てもらったらADHD(注意欠陥多動性症候群)だと診断されました。それで、母親がどうすればいいですかと尋ねたら、医師が「あっち、こっち動き回るのが好きだから、ブールにでも入れておいたらどうですか。きっと才能が伸びると思いますよ」と。


 そこで、母親はフェルプスを水泳教室に入れたらメキメキと上達したそうです。なぜ、水泳教室に入れたメキメキと上達したんでしょうか。実は、この後で述べる発達障害者にはインディアンが多いことも関係します。このことは、このブログの最後の「参考文献」で書きたいと思います。



●すべての学校で発達障害の教室設定

 カナダの学校では、特別なことがない限り、発達障害の児童がある人数存在する場合は、特別学級を設けて、そこで教育します。私の友人が、この学級の担任で「いつも動き回るし、いうことを聞かないので、とても疲れる」と話していました。そして、「インディアンの子供が多い」とも。


 そして、この学級では、ある程度の厳しさは必要だけど「自分たちはやるべきことを知っているけれども、できない」という前提で、指導するといいます。


 できないことを罵って「お前はダメだ、ダメだ」と教育すると、本人がプライドを失って、「自己評価を下げて」、そして人格障害に結びつくことを知っているからです。絶対に、日本人の言う「愛のムチ」は使わないのです。



●教室での一貫した姿勢

 そして、カナダでは、発達障害の子供が普通学級にすることもあるので、小学生から高校生に至るまで、「いじめ」と絶対に許しません。この「いじめ」かどうかの境界は「プッシュ」です。つまり、相手を「押した時点」で、それをいじめと認定して校長が出てきて、両親と話し合います。もし、繰り返し、それを行うなら、中学生でも退学となることがあります。


 カナダでは、こういったことを徹底して生徒たちに知らせているので、生徒たちの間でも「いじめ」は悪い、「プッシュ」は絶対に良くないと知っています。


 いうまでもなく、日本のように継続的にニグレクトや暴力を働くことはほとんどないし、仮にそのようなことがあった場合は、校長の出番ではなく警察によって逮捕されます。


 このことは、日本の学校とは全く異なりますね。最近、よくあったことですが、ある生徒が「いじめ」が原因で自殺したときに、学校長をはじめとして先生たちがテレビに登場して「調べた結果、いじめたという証拠はありませんでした」とか、教育委員会がでてきて、「学校長の言う通り」と発言して、責任逃れをするのとはまったく異なります。



●家庭や社会での対応

 カナダでは、家庭で12歳以下の子供を一人に放置したり、外出先、たとえばスーパーの駐車場などで12歳以下の子供たちを1人で放置したら、即逮捕の原因となります。


 ここで、エピソードを2つ。


私の友人の一人ですが、その子供が1台しかないパソコンを独り占めしてなかなかあけてくれません。そんなときに、私が遊びに行ったら、「だからといってこずいたり、殴ったりすると逮捕だから」、と「まあ、根気よく、いい聞かせるしか手がないんだよね」と言っていました。


 また、ある日本人旅行者が車で旅行中に、スーパーの駐車場で12歳以下の子供に「ここで待っててね」といって買い物をしていたそうです。そうして、帰ってきたら、車の前に警察がいて、即逮捕だそうです。どちらにしても、ニグレクトになるんですね。


 カナダでは、ある子供が虐待されたり、ニグレクトされていることが分かっている「人々が良く集まる場所で働いている人」が、それを無視すると逮捕されます。たとえば、学校、病院の医師、スーパーの店員などです。


 日本でも同じような規定がありますが、「通報する義務」があるというだけで罰則規定がありません。だから、医師が虐待の恐れがある子供がいても、下手に通報して、親らに逆恨みをされたら困るといって通報しないことがあるんです。



●境界性人格障害への道を断つ

 カナダでは、発達障害の子供も、普通の子供も、虐待、ニグレクト、いじめを継続的に行うと、その子供たちが、まず二次障害として「適応障害、つまり自己評価の定価」を起こすことを恐れます。このように自己評価の低下を起こすと、「どうせ俺なんか」と犯罪の道に入る可能性が高いのです。


 また、そのように自己評価の低下をしている生徒を見て、日本風に「根性がねじ曲がっている」とか「ひねくれている」から「叩き直すために罰を与える」ということを継続的に行うと境界性人格障害になってしまい、それを恐れます。


 というのは、このように境界例を発症すると、それが自分の子供や奥さんを虐待したり、殺すことになるからです。また、動機不明の無差別殺人を起こす可能性があるからです。

 したがって、幼児の時から発達障害の診断とケアを十分行うのです。


 最後になりますが、誤解を避けるために再度お願いがあります。発達障害の人の絶対多数は社会の中でまともに仕事をしています。学校での教師、大学での教授、弁護士、医師というようにとてもりっぱな仕事をしている人が多くいます。


 このような人を育てるために必要なことは何か、そのヒントをカナダから学んでいただきたいと書きました。