2023年宝塚グランプリは花組公演「鴛鴦歌合戦」に決定!

礼真琴が主演男役賞、歌唱賞のダブル受賞、娘役賞は星風まどか

月組公演「万華鏡百景色」が演出賞はじめ6冠を達成!

 

 

毎日文化センター「宝塚歌劇講座」(大阪)の受講者を中心に鑑賞団体オフィスエトワールの会員東西の宝塚担当記者や評論家など幅広いメンバー60の投票で、今年も宝塚グランプリが決定しました。2023年に上演された全作品からノミネート2作品2)を選んでいただ集計したものです。結果は次の通りとなりました

 

★最優秀作品賞 

ミュージカル(大劇場)部門

花組公演「鴛鴦歌合戦」小柳奈穂子脚本演出

 

ミュージカル(大劇場以外)部門

星組公演「ル・ルージュ・エ・ノワール赤と黒」(谷貴矢脚本、演出

 

レビュー部門

月組公演「万華鏡(ばんかきょう)百景色」(栗田優香、演出)

 

再演部門

星組公演「1789バスティーユの恋人たち」(小池修一郎脚本、演出

 

★最優秀主演男役賞(大劇場)

礼真琴(1789バスティーユの恋人たち)

 

★最優秀主演男役賞(大劇場以外)

暁千星(ME AND MY GIRL

 

★最優秀主演娘役賞(大劇場)

星風まどか(うたかたの恋、鴛鴦歌合戦)

 

最優秀主演娘役賞(大劇場以外)

舞空瞳(ME AND MY GIRL

 

★最優秀助演男役賞

鳳月杏(応天の門、フリューゲル

 

★最優秀助演娘(女)役賞

有沙瞳(1789、ル・ルージュ・エ・ノワール)

 

★最優秀歌唱賞

礼真琴(1789、ル・ルージュ・エ・ノワール)

 

★最優秀ダンス賞

柚香光(BE SHINING

 

★新人賞

天城れいん(「鴛鴦歌合戦」新人公演)

 

★演出賞

栗田優香(「万華鏡百景色」)

 

★主題歌賞

「万華鏡百景色」同名主題歌(手島恭子)

 

★振付賞

「万華鏡百景色」地獄変の場面(森優貴)

 

★衣装デザイン賞

「万華鏡百景色」(加藤真美)

 

★美術賞

「万華鏡百景色」(國包洋子)

 

★特別賞

彩風咲奈(最上級生トップとして団員を盛り上げた功績)

 

選考経過

 

宝塚ファンにとって忘れられない年となった2023年。恒例の「宝塚グランプリ」実施についても悩んだのですが、過重業務をものともせず、我々に夢を与え続けてくれたタカラジェンヌたちの奮闘を顕彰するためにアンケートを作成、各所に配布したところほぼ100パーセントの回収があり、今年もグランプリを決めることができました。

 

大劇場作品賞は、花組公演「鴛鴦(おしどり)歌合戦」が、月組公演「フリューゲル」3票差でしのぎ栄冠を獲得しました。「鴛鴦」は、小柳氏の「幕末太陽伝」「今夜ロマンス劇場で」に続く映画発掘シリーズ第3弾。今回は1939年制作のマキノ正博(雅弘監督の時代劇シネオペレッタの舞台化でしたが、軽快なテンポと耳に心地よい話し口調の主題歌が、歌いあげるミュージカル全盛の今聞くとかえって新鮮で、見る者の気持ち明るくさせてくれました。東西冷戦時代のベルリンを舞台にした斎藤吉正氏のオリジナル「フリューゲル」も大健闘、3位は菅原道真の若き日を描いた月組公演「応天の門」(田渕大輔脚本、演出)でした。

 

大劇場以外の外箱公演の作品賞は、礼真琴主演による星組公演、フレンチロックミュージカル「ル・ルージュ・エ・ノワール赤と黒」に輝きました。「鴛鴦」とは対照的な、まさに現代の宝塚を象徴する作品、スタイリッシュな装置、衣装が印象的でした。次点は彩風咲奈、夢白あやのコンビお披露目公演だった雪組の御園座公演「ボニー&クライド」でした。

 

レビュー部門は、東京の今昔をレビュー化した栗田優香氏の独創的なショー「万華鏡百景色」が圧倒的な支持を得て1位となりました。和から洋へと展開していく演出が凝っていて作家性の強い見ごたえのあるレビューでした。「万華鏡-」は演出賞、主題歌賞、振付賞、衣装デザイン賞、美術賞もあわせて受賞、なんと6冠を制しました。マンネリ化していた宝塚のレビューシーンへの一喝として2023年最も突出した記憶されるべき舞台だったように思います。ちなみに次点は野口幸作氏の香水をテーマにした花組の豪華絢爛王道レビュー「ENCHANTEMENT華麗なる香水」でした。

 

再演部門は星組公演「1789バスティーユの恋人たち」が圧倒的な票数を獲得しました。水美舞斗、暁千星の役替わりで話題を呼んだ博多座の星組公演「ME AND MY GIRL」も善戦しましたが及びませんでした。「1789」は大劇場が初日以降二週間休演、東京公演も礼真琴の体調不良で中断するなど変則的な公演になりましたが作品のクオリティーは初演を上回り、実質本年度ベストの出来栄えといっていいでしょう。3位はオリジナルの柴田侑宏バージョンを大幅に改変した花組公演「うたかたの恋」でした。

 

個人賞に移りましょう。主演男役賞(大劇場)は「1789」のパワフルな熱演で礼真琴が大激戦を一歩抜け出し選ばれました。つねに最高の舞台を見せたいという礼の信念がそのままストレートに出た舞台で彼女の代表作になったといっていい舞台でした。くれぐれも無理はせずこれからも我々を楽しませてくれることを祈っています。礼は歌唱賞もダブルで受賞、二冠に輝きました。2位は2票差で「応天の門」「フリューゲル」の月城かなと、続いて「うたかたの恋」「鴛鴦歌合戦」の柚香光が1票差で並ぶという混戦でした。

 

大劇場以外の外箱公演の主演男役賞は、星組博多座公演「ME AND MY GIRL」でビル役を若々しく精新に好演した暁千星が、雪組公演「双曲線上のカルテ」の和希そらを5票差で押さえて1位に輝きました。3位は暁とダブルキャストでビルを演じた専科の水美舞斗でした。

 

主演娘役賞(大劇場)は最後まで大激戦でしたが「うたかたの恋」「鴛鴦歌合戦」で好演した花組の星風まどかが、「1789」の星組、舞空瞳の猛追を押さえて2票差でトップに輝きました

 

一方、舞空は「ME AND MY GIRL」のサリー役で大劇場以外の部で主演娘役賞を受賞、星風、舞空がそれぞれの頂点に立ちました。こちらは2位が「ボニー&クライド」の夢白あや、「二人だけの戦場」の星風と続きました。

 

助演男役賞は「応天の門」「フリューゲル」で貫禄たっぷりの演技力を示した月組の鳳月杏が納得の栄冠。「ボニー&クライド」の和希そら、「応天の門」「フリューゲル」などの風間柚乃も健闘しましたがわずかに及びませんでした。

 

助演娘役賞は「1789」のマリー・アントワネット「ル・ルージュ・エ・ノワール」のレナル夫人と適役に恵まれて退団した星組の有沙瞳がダントツで選ばれました。男役ながら女役ジャッキーに挑戦した「ME AND MY GIRL」の極美慎がこれに続き、同じく「エクスカリバー」で男役ながら女役に挑戦、見事な歌唱を披露した真白悠希が宙組から唯一上位に選ばれています。真白は歌唱賞でも礼、美穂圭子に続いて3位に入りました。

 

最優秀ダンス賞は年末のコンサート「BE SHINING」の成果で花組の柚香光が選ばれました。大浦みずき以来のダンスの花組を継承した柚香の見事なラストショーでした。

 

注目の新人賞は各組有望新人乱立で混戦状態でしたが、花組「鴛鴦歌合戦」新人公演で好演、さわやかな印象を残した天城れいんが一歩抜け出して栄冠を獲得。2位が月組「フリューゲル」新人公演で主演した瑠皇りあ、3位が星組「1789」新人公演で主演した稀惺かずとという結果となりました。2024年は大劇場での新人公演が当分見送られ、東京だけになりそうですが、大劇場での経験を通して課題を見つけ、東京でさらにブラッシュアップするということができなくなり、一回だけではよけいにプレッシャーがかかってしんどいと話す生徒もいることから、全体のスケジュールをさらに緩和して大劇場での新人公演の復活も望みたいものです。

 

演出賞、主題歌賞、振付賞、衣装デザイン賞、美術賞はすべて「万華鏡百景色」が獲得しましたが、それぞれの次点は演出が「うたかたの恋」と「鴛鴦歌合戦」小柳奈穂子、主題歌が「フリューゲル」の長谷川雅大、振付が「ME AND MY GIRL」のフィナーレを担当した若央りさ、衣装デザインが同じく加藤真美で「ル・ルージュ・エ・ノワール」、美術賞が「フリューゲル」の稲生英介という結果となりました。

 

最後に特別賞は最年長トップとして団員を盛り上げた功績をたたえて雪組の彩風咲奈に捧げることで全員一致の賛同を得ました。退団会見でのすがすがしい受け答えも実に立派なものでした。

 

投票全体の傾向でいうと星組に勢いを感じた半面、やはり宙組に対しての評価が厳しく、票が伸びたのは「エクスカリバー」の真白悠希だけでした。さまざまな内部事情が流れ出し、作品の成果とは関係がないとはいうものの投票者の心を微妙に左右したものと思われます。「カジノロワイヤル」関連の票数があまりに少なかったのがそれを如実に表しているようです。宙組の今後がどうなるのか年末の時点では不透明ですが、5組そろって笑顔で楽しめる日が来ることを祈って今年の締めくくりにしたいと思います。

 

©宝塚歌劇支局プラス1228日記 薮下哲司