©️宝塚歌劇団

 新人公演プログラムより抜粋転載

 

 

大路りせ 初主演でボンドに挑戦「カジノ・ロワイヤル」新人公演

 

宙組トップコンビ、真風涼帆、潤花のサヨナラ公演、アクション・ロマネスク「カジノ・ロワイヤル」~我が名はボンド~(小池修一郎脚本、演出)新人公演(平松結有担当)が、28日、宝塚大劇場で行われ105期のホープ、大路りせが初主演、ジェームズ・ボンドに挑戦した。

 

新人公演は、1本立て作品恒例の休憩なし1時間45分の短縮バージョン二幕冒頭の仮面舞踏会とフィナーレがカットされたほぼ本公演通りの展開。007シリーズ初の舞台化として話題の舞台だが、真風はじめ出演者の魅力で持っていただなあということが新人公演を見ての第一印象。新人公演メンバーもそれぞれ頑張ってはいるものの、本公演メンバーに当て書きされミュージカルコメディなので、経験の浅い若手だけの公演となると間延びしてしまい、特に二幕に当たる後半は、目の前でピストルを撃ち合っているのに誰にも当たらないというアクションシーン本公演では愛嬌と好意的に受けとったが、新人公演で改めて見るといかにも安っぽい作り物に見え、脚本の甘さうかびあがった。巧い下手関係なく演者が歌い終わるか終わらないうちに爆竹拍手で周囲に拍手を強要するかのようなファンがいたのも興ざめした。新人公演メンバーを温かく見守るのは大賛成だが、せっかくの清々しいムードがぶち壊しだった。

 

前置きが長くなったが、初主演の大路は、甘いマスクとすらりとした長身が魅力。「HIGHLOW」新人公演では桜木みなとが演じたスモーキーを溌溂と演じ、強い印象を残し、待望の初主演となった。真風扮するジェームズ・ボンドに挑んだ今回は幕開きの登場シーンから立ち姿は申し分なく、ダンスの切れも目を引いたが、歌唱が男役としてまだまだ発展途上、今後の精進を大いに期待したい。大路はじめ、全体的に歌唱がやや弱く感じられたのが今回の新人公演の印象。

 

芹香斗亜が演じたボンドの宿敵ル・シッフルは、103期ですでに二度の新人公演主演経験がある亜音有星。さすがに安定感は抜群で、初主演の大路をサポート。芹香をお手本に亜音ならではの甘さも加えて好演した。大舞台での自分の立ち位置が見えてきたようで頼もしい存在。

 

潤花が演じているデルフィーヌには105期の美星帆那(みせい・はんな)が起用された。「HIGHLOW」新人公演では山吹ひばりの仁花を初々しく演じていたのが印象的だったが、今回は、ロマノフ家末裔の女子大生という役どころを、等身大で自然に表現、現代的ながら貴族の血筋という品格も漂わせた。大路とは同期生ということもあり、クライマックスのパラシュートの場面などそのあたりの息の合った感覚も心地よかった。

 

桜木が演じているデルフィーヌの恋人で過激派の学生ミシェルは泉堂成(105期)。ボンドに協力するルネ・マティス(瑠風輝)が鳳城のあん(106期)フェリックス・ライター(紫藤りゅう)が琉稀みうさ(103期)スメルシュのイリヤ(鷹飛千空)が風翔夕(107期)そして寿つかさが怪演?しているゲオルギーを嵐之真(104期)というところが主な配役。泉堂の期待通りの堅実さ、風翔の押し出しの強さが印象に残った。風翔はジャマイカのホテルボーイ役も演じた。

 

 ゲオルギーの二人の息子、風色日向のグレゴリーは聖叶亜(105期)亜音のアナトリーが奈央麗斗(107期)だったが、奈央のスター性豊かなオーラが輝いていた。

 

 娘役では天彩峰理が快演しているアナベル役の愛未サラ(105期)、春乃さくら扮するヴェスパー・リンド役の山吹(105期)、両人とも適役好演。愛未の気持ちいい潔さ、山吹の凛とした美貌、眼福だった。

 

 優希しおんが卓抜したダンスを見せている訓練隊長ジャンの波輝瑛斗(106期)も実力を発揮した。こういうダンス巧者の見せ場を作るのは大歓迎だ。いずれにしても新人公演らしい新人公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス329日記 薮下哲司