望海風斗 堂々の主演舞台「DREAM GIRLS」大阪公演開幕

 

元雪組トップスター、望海風斗が主演したミュージカル「DREAM GIRLS」(眞鍋卓嗣演出)大阪公演が、220日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。オリジナルは全員黒人キャスト、高度な歌唱テクニックを要するミュージカルで、日本人キャストでの上演は難しいと思われていたのだが、望海はじめ粒ぞろいの出演者がそろい、見事にクリア、画期的な成功を収めた。

 

1960年代初頭にデビューしたダイアナ・ロスを中心とした3人組のグループ「シュプリームス」をモデルにしたミュージカルで、結成から解散までの約10年間を描いている。ブロードウェー初演は1981年。その二年後、現地で観劇しているが、楽曲のすばらしさ、出演者たちの歌唱力の確かさ、白人優位のアメリカの音楽業界で黒人が売り出すための内幕の描写に感服した覚えがあるが、なんといっても客席がほぼ黒人で埋まっていたのが強烈なインパクトだった。2006年にはビヨンセ主演で映画化され、エフィ役を演じたジェニファー・ハドソンがアカデミー助演女優賞を獲得、10年以降には黒人キャストによる来日公演がたびたび上演されている。

 

そんな伝説のミュージカルの日本初演で主演のディーナ役に望海が決まったと聞いた時は、全員黒人キャストのミュージカルを日本人が出来るのだろうかという不安と、望ならできるだろうという安心感が交錯して、複雑な思いがしたことは確かだった。その後、名より実を取った主なキャストが発表され、製作側の本気度がうかがえ、中身に対する不安はなくなったが、いくら望海に人気があるとはいえ、望海一人の集客力で興行が成立するのだろうかといういらぬ心配までする始末。しかし、東京公演は連日満員の盛況、大阪公演も好調な様子で、杞憂に終わったのが何よりだった。

 

ダイアナ・ロスをモデルにしたディーナ役は、3人の中で歌は姉のエフィの方が上手いが一番華やかでスター性が豊かという設定。一幕のリードボーカルとしてデビューするまでの「ドリーメッツ」時代は、3人の中でも引っ込み思案で目立たない形に設定してあり「ドリームズ」結成の一幕ラストから二幕に入ってからスターオーラで圧倒するという展開。芝居巧者であり歌唱力抜群の望海にはうってつけの役どころ。「DREAM GIRLS」や「One Night Only」など楽曲の良さにも助けられ、クライマックスのグループ解散、エフィとの和解まで感動的に見せ切った。男役時代と何ら変わらぬ芯のあるよく伸びる声が大劇場によく響き、違和感なく見る者を魅了した。ミュージカル女優としてまた一歩大きく前進したといっていいだろう。

 

映画でジェニファー・ハドソンが演じたエフィ役は村川絵梨と福原みほのダブルキャスト。主演の望海より歌が上手いという設定で、ソロの名曲が二曲もある超難役ありおいしい役どころ。初日は村川だったが、テレビ小説のヒロインや舞台、映画で何度も見ているはずの彼女だったが、こんなに歌唱力があるとは認識不足。一幕ラストの「AND I AM  TELLING YOU)′M NOT GOING」は聴かせた。

 

 彼らを売り出すプロデューサー役のカーチスに扮したspiも「TAKE ME OUT」は見ているのだが、他の舞台はコロナ禍で見る機会がなく、今回、初めて実力を知った形。長身で声にパワーがあり、芝居にも押し出しがあって強烈な印象を残した。他のキャストも実力派ぞろいで全員が黒人であることの違和感を忘れさせた。

 

 2023年に入って元タカラジェンヌたちの舞台を何本か見たので、その報告もしておくと、まずは元月組トップスター、珠城りょうが退団後初主演したミュージカル「マヌエラ」(千葉哲也演出)。1999年に天海祐希が主演したミュージカルの再演だが、中身は同じでも演出が変わっているのでほぼ新作同様。元SKD(松竹歌劇団)の一期生だった東路道代をモデルにしたもので、退団後、戦前の上海で国籍不明のダンサー、マヌエラとして成功する数奇な運命を描いている。マヌエラこと妙子に扮した珠城は、男役時代同様、安定感のある演技と歌、ダンスで舞台を務め、女優としても幸先のいいスタートぶり。ただ男役、珠城を見たい人には不向きな題材のように思った。

 

同じ元月組のトップスター、真琴つばさは「歌うシャイロック」(鄭義信作、演出)に出演。京都南座で29開幕、博多座を経由して316日から東京サンシャイン劇場で上演される。シェイクスピアの「ヴェニスの商人」を全編関西弁、しかもミュージカル仕立てという異色作。主人公のシャイロックには地球ゴージャス以外の芝居に出演するのは11年ぶりという岸谷五朗、真琴は、裁判に男装して弁護士として登場するポーシャ役を演じている。もともと兵庫県立のピッコロ劇団で小規模な形で上演された作品をグレードアップしての再演で、全編関西弁というところがミソなのだが、真琴も含めて主要出演者が関西人ではないので微妙にニュアンスが違っていて突っ込みどころ満載。うまいなあと思ったら松竹新喜劇の曾我廼家桃太郎だった。「焼肉ドラゴン」風「ベニスの商人」という印象。

 

とはいえ真琴はお手のものの男役姿もかっこよく、彼女のための新曲もあって楽しげに演じているのが見ていて心地よかった。元劇団四季の福井晶一がポーシャの付き人ネリッサ役で女役に扮して怪演したのも注目。

 

©宝塚歌劇支局プラス220日記 薮下哲司