こんにちは。羽衣国際大学准教授の永岡俊哉です。薮下さんが編集者を務める宝塚イズムの執筆者の一人で、このブログ「宝塚歌劇支局プラス」の管理人をしております。今回は私が2月2日から25日まで上演される星組中日劇場公演ミュージカル・ロマン「うたかたの恋」とタカラヅカレビュー「ブーケ ド タカラヅカ」の模様をお伝えしましょう。

 

   ©宝塚歌劇団

 

 毎年、早春の名古屋をすみれ色に染めてきた宝塚歌劇中日劇場公演。その中日劇場がこの3月に閉館することになり、宝塚としては最後の公演を紅ゆずる率いる星組が計40名で担当することになった。星組は秋に台湾公演も控えており、劇団の期待が感じられる。芝居は1983年の初演以来、大劇場や全国ツアーでも再演が繰り返されている「うたかたの恋」で、ご存じハプスブルク王朝の皇太子ルドルフ(紅)とマリー(綺咲愛里)の悲恋の物語である。最近では2013年に凰稀かなめと実咲凜音の宙組が全国ツアー公演で上演している。

 

 まず冒頭に階段の上と下で登場するルドルフとマリー。階段を慎重に降り、白い軍服がキリっと映える紅と純粋にルドルフを思う健気なマリーが中日劇場のスポットライトを浴びる。私は観劇前に紅と綺咲のトップコンビがこの演目に合うかやや不安に感じていたのが、それを払拭するプロローグだと安心した。そして、冒頭は紅の緊張が見て取れたものの、始まってみればルドルフとマリーの死に向かう切ない会話が客席をその世界に引き込んだ。特筆すべきは綺咲演じるマリーの可愛さ、一途さ、健気さで、歌唱も安定した素晴らしいトップ娘役として成長著しく、紅のルドルフに完璧に寄り添っていた。

 そして、今回はフリードリヒ公爵を演じる専科の凪七瑠海も含め、ルドルフの母エリザベートの万里柚美、ジャン・サルヴァドル大公の七海ひろき、ジャンの恋人ミリーの音波みのり、ヨゼフ皇帝の十碧れいや、ブラッドフィッシュの如月蓮、ボヘミアの歌姫マリンカの夢妃杏瑠など組の上級生が脇をしっかり固めて紅を支えるカンパニーとなっていて、これまでの柚希礼音や北翔海莉の時代のトップが引っ張る体育会系と言われた星組とは少し違うテイストを醸し出していた。

 また、実力派の中堅である大輝真琴、紫月音寧、漣レイラ、ひろ香祐、紫藤りゅうも紅と綺咲を盛りたてた。若手では桃堂純、華鳥礼良、前回新人公演主演を務めた極美慎、宙組から組替えとなった華雪りら、前回新人公演ヒロインの星蘭ひとみが存在感をアピールする頼もしさだった。

 芝居としては政略結婚した妻と冷え切った関係のルドルフがマリーと出会い、深く結ばれる。それを許さないヨゼフ皇帝と権謀術数を巡らし権力を手にしようとするフリードリヒ公爵が二人を引き離そうとするが、むしろ二人の仲はさらに深まり、死に向かうことで永遠の幸せを得ると言うご存じの結末。「はかなくも美しく…」と名付けられたラストシーンをひろ香と夢妃のカゲソロで、文字通り美しく切なく飾ってくれた。

 

 一方、ショーの「ブーケ ド タカラヅカ」はタカラヅカレビュー90周年と銘打った前回の大劇場公演のショーを人数半分のバージョンとして名古屋に持ってきたもの。しかし、構成や曲目はほぼ同じとあって、タカラヅカの華やかなショーが名古屋のファンを魅了した。特に、「モン・パリ」、「パリの屋根の下」、「オーシャンゼリゼ」となじみの曲が続くと観客のテンションも上がり、「セ・マニフィーク」の中詰めで最高潮に。そしてスパニッシュダンス、ロケット、燕尾服とドレスのダンスと続き、フィナーレは凪七の歌に乗せてトップコンビ、七海と音波、十碧と夢妃の3組のデュエットダンスの「花夢幻」で美しく締めた。エトワールは97期の歌姫である華鳥礼良が良く伸びる高音を聞かせてくれた。

 

 私が観劇した時は2月9日金曜日12時公演と平日にもかかわらず1階、2階とも満席で、中日劇場の閉館を惜しむ名古屋のファンが多いことを物語っていた。演目として「うたかたの恋」が必ずしも紅に合っているとは思えないが、回りがトップを支えることで芝居を成立させるという新しい星組のパターンが出来上がってきたことは喜ばしいことである。この調子で次回大劇場公演や台湾公演も乗り切って欲しいものである。

 

  ©宝塚歌劇支局プラス 2018年2月12日 永岡俊哉 記