愛月ひかるも永遠の命を持つ青年に、宙組公演「不滅の棘」開幕

 

宙組の人気スター、愛月ひかるが主演したロマンス「不滅の棘」(木村信司脚本、演出)が7日、大阪・シアタードラマシティで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

大劇場では永遠に年をとらないバンパネラの少年を主人公にした「ポーの一族」を上演中だが、「不滅の棘」も、偶然かどうか医師の父親に不老不死の薬を飲ませられ永遠の命を持ってしまった青年が、350年もの間、生き長らえて数奇な体験をする物語。オペラにもなっているチェコの作家カレル・チャペック原作の戯曲「マクロプロス事件」がベースで、永遠の命を与えられたのがバンパイアではなく人間であることが「ポーの一族」との違いだ。不老不死は人間だれしものあこがれだが、実際それを手に入れると不幸極まりなく、やはり自然が一番という教訓の物語でもある。

 

木村氏は主人公を女性から男性に変えて2003年に春野寿美礼を中心とした花組で初演、白で統一された衣装や舞台装置が斬新な舞台だった。前年に「エリザベート」でトップ披露、相手役の大鳥れいを送り出したあとコンビを組んだふづき美世との新コンビ披露作品で、瀬奈じゅん、彩吹真央、遠野あすかと今振り返ると豪華メンバーが出演。ユニークな衣装や舞台装置は印象的だったが時制が変わっても衣装の色が変わらないので内容がつかみにくく春野の豊かな歌唱力だけが耳に残った公演だった。

 

今回改めて再見すると、あらかじめストーリーが分かっていることもあって、細部のこだわりがよく理解でき、男役としてひとまわり大きくなった愛月の成熟した演技がこの作品にぴったりはまった。何度もリフレインする主題歌も耳に心地よく響いた。愛月が登場するたびに出現する4人のガールズたちが不可思議な存在だったが、舞台に華やかさをもたらしていて効果をあげていた。

 

1933年のプラハ。有名歌手として当地で公演している青年エロール・マックスウェル(愛月)は1585年生まれの348歳だった。エロールは、1816年のプラハで知り合った女性の子孫フリーダ(遥羽らら)が100年越しの裁判をしていることを知り、フリーダを救うために一肌脱ぐことを決意する。舞台は1603年のギリシャのクレタ島から始まり、1816年のプラハ、1933年のプラハと次々に移り、青年の長く悲しい人生をあぶりだしていく。

 

愛月はエリィ・マクロプロス、エリィ・マック・グレゴル、エロール・マックスウェルと登場するたびに名前が変わるが、実はすべて同じ人間。「ポーの一族」のエドガーと同じく望んで求めた永遠の命ではなく、そのことで厭世的になっているのもなんとなく似ている。1933年のエロールはすっかり生き疲れたカリスマスターとして登場するのだが、愛月はそんな雰囲気を嫌みなく実にうまく出して好演。新人公演主演4回と当初から期待株だったが、卒業後は「エリザベート」のルキーニあたりからようやくエンジンがかかりだし「王妃の館」の金沢貫一、「神々の土地」のラスプーチンとこのところ絶好調、この作品もうまく波に乗った感じがする。初演のときにはあまり感じられなかった主人公の過去への苦い思いのようなものがよく伝わった。課題は歌唱か。特に低音部分が弱かった。

 

相手役のフリーダを演じた遥羽は、宙組新トップ娘役の星風まどかより2期上級生にあたり「王家に捧ぐ歌」新人公演がアムネリス、「Shakespeare」「王妃の館」新人公演で二度ヒロインを演じており、満を持しての大役挑戦。1816年と1933年のフリーダを巧みに演じ分け、なかでも1933年のショートカットにサングラスという現代的な作りがなかなかよく似合っていた。愛月との相性もよく、今後のさらなる活躍が楽しみだ。

 

初演で瀬奈が演じた弁護士アルベルトは澄輝さやと、後半の弁舌部分が聞かせどころ。彩吹が演じたハンスは留依蒔世。アルコール依存症でエキセントリックな演技が必要な役どころを熱演、遠野が演じたその妹クリスティーナは華妃まいあ、きれいなソプラノのソロを好唱、思わず聴き入った。ほかにカメリアの美風舞良、タチアナの純矢ちとせがこの2人ならではの難役を適役好演して脇を締めた。若手ではショーシーンはじめ様々な役で登場した朝央れんと七生眞希がはつらつとした動きでさわやかな印象を残した。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス1月7日記 薮下哲司

 

元専科・箙かおるさんが毎日文化センター宝塚歌劇講座のゲストに登場!

 

◎…「毎日文化センター」(大阪)の「薮さんの宝塚歌劇講座」では、今年最初の1月24日の講座に、昨年12月14日付で退団されたばかりの元専科のスター、箙かおるさんを特別ゲストにお迎えすることになりました。汀夏子、麻実れい、平みち、杜けあき時代の雪組で活躍、轟悠時代には組長も務め、専科入り後も渋い脇役で舞台を締め、最近では「王家に捧ぐ歌」「鳳凰伝」の好演が記憶に新しいところです。退団後初めて箙さんの宝塚愛に満ちたお話を聞ける機会です。この機会にぜひ講座にご参加ください。特別に一回限りの特別会員(3500円税抜き)を先着20人に限り受け付けます。参加ご希望の方は1月10日午前10時以降に毎日文化センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。