ぼくときみ



「ギャー――!!!!!!首が!!!首が飛んだ―――!!!!!」

「なー――!!!!何かっ何かが俺の顔触ったぁあああ!!!!!」

「暗い!!!何も見えないーー!!!!つかまた行き止まりぃいいいぃぃぃいい!!!!」


「ゆ、ユノ君落ち着いて!大丈夫だから!僕がここにいるから!」




もう足はガクガクで半分腰が抜けた状態の俺。情けない事にジェジュンに手を引かれて前へ進む。


東神美大生の迫真の演技も凄いけど、噂通り特殊メイクの出来がハンパねえ!!!


俺はテコンドーも合気道も段持ちだ。ケンカふっかけられても恐くないし、ヤクザに脅されたって立ち向かう自信はある。ただ、驚かされるのは嫌だ。特に幽霊とかお化けとか!!


ジェジュンに縋りついて腰を折り、俯きながら歩いていた俺の足を、壁の下から出て来た真っ白な手が掴んだ。しかも隙間から髪の長い女の顔が突然出て来てその血走った目とバッチリ見詰め合ってしまった。



ひーーーーーーぃ…………!!!!



俺が声にならない悲鳴を飲み込んだ時、後ろを歩いていた女子のグループにもその魔の手が伸びていたらしく、もの凄い叫び声を上げながら俺とジェジュンを突き飛ばし、しかもジェジュンを巻き込んで先へと行ってしまった。


「ジェジュンーー!!!!」

「ユノくーーん!!!」


気が付けば俺は暗闇に独り。周りを包むおどろおどろしい音楽……。


「じぇ……じゅーーーん!!」


壁に手を付き必死に前へ進む。途中途中でゾンビやら幽霊やらに追いかけられ、もう泣きそうだ。


「ユノくーん!どこー?」

「ジェジューン!」


声は聞こえるけど、ここはMIROTICという名の迷路。俺たちの間を黒い壁が隔てている。


「くっそー…やっぱり入るんじゃなか……ぐわーーー!!!」


何か白いものが目の前を通り過ぎ、ダッシュで逃げる。もう二度とお化け屋敷と迷路には入らねえ!!!




同じところをぐるぐると回っているような感覚に陥っていた俺は、やっと仄かに光りがある場所を見付けそこへ向かった。


出たのは階段の踊り場で、いつの間にか上の階に上がっていたと気付く。下から会話する声が聞こえてホッと息を吐いた。

でも、階段に足を掛けた所で会話の内容が耳にしっかり届き、俺は眉間に皺を寄せた。


「ね、彼氏来ないって事は絶途中の非常口から逃げちゃったって。外連れてってあげるからさ、俺ももう終わりだし、カラオケでも行こうよ」


「いえ、もうすぐ彼も来るんで…」


「えー、さっきからめちゃめちゃ叫んでたのって君の彼氏じゃないの?あんな情けない声出す奴なんてカッコ悪いじゃん」


「そんな事ないです!あの…大丈夫ですから手、離して下さいっ」


この声、ぜってージェジュンだ。俺は声のする方へ階段をガンガン踏みしめながら降りて行った。


「ジェジュン!」

「ユノ君!良かった」


階段を降りてすぐの所に居たジェジュンは血の滲んだ包帯だらけの男に両手を握られ、半泣き状態だった。


「あんた、人の恋人勝手に口説いてんじゃねーよ」


「彼女独りにしといてよく言うな」


俺よりガタイのいい、多分大学生。でも俺は怯まず相手の前に立つ。


「はあ?もう一回言ってみろよ。誰が情けねえって?」


「ユノ君!」


包帯男の胸倉を掴んだ所で、ジェジュンが俺に抱き着いた。


「もういいから、ね、出よう?」


俺の肩に埋めた顔を上げたジェジュンの目尻から涙が落ち、頭に上った血がすっと下がる。もしここで俺たちが殴り合いを始めたら、ジェジュンが傷つく。ジェジュンが嫌がったり怖がったり事は絶対にしたくない。


俺は胸倉を掴んだ手を離し、ジェジュンの手をしっかりと握ると非常灯の付いているドアへと向かった。後ろで「チッ」と舌打ちが聞こえたけど、無視して進む。




が。




ヒュッ



ドアに辿り着く直前。すっかり油断した俺の目の前に、血だらけの頭蓋骨が落ちて来て足元に転がった。



「~~~~~!!!!!!!!!」