昨日提出した上告趣意書の要旨です。
マスコミに流したものと同一のものです。
ちょっと長いですが、ぜひ読んでみてください。
あと、明日ニコニコ動画で、ひろゆきと、このテーマをメインに生放送やります!

あと、この趣意書提出の記者会見を司法記者クラブで行いました。そのときの模様を一部だけYouTubeにアップしました。自分で撮影したのでアングルが微妙ですが。。。

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堀江貴文氏に係る証券取引法違反被告事件
上告趣意書の要旨

2009年4月23日
主任弁護人 弘中惇一郎


1.はじめに

 裁判は法と証拠に基づいて行われなければならない。しかし、メディアが醸成する異常な雰囲気が社会を覆い尽くすような場合には、それが困難になる場合がある。本件当時、メディアは、ライブドアや被告人のすべてが悪いかのような誤解を振りまき、被告人に対してフレンジー(狂乱、逆上)な状況が作り出され、一審判決及び原判決はこれに影響されてしまった。最高裁判所は、司法の最後の砦として、法と証拠に基づき冷静に判断していただきたいと切に願う。


2.最高裁判例違反(非刑罰法規の錯誤に関する判例違反)

 本件は故意犯であるから、有価証券報告書に虚偽の記載がなされたことの認識が必要である。しかし、堀江氏は、有価証券報告書上にライブドア株式売却益約37億円の利益計上をすることが会計基準上誤った取扱であることを認識していなかった。
 最高裁昭和26年7月10日第三小法廷判決は、寺院規則など非刑罰法規の誤解による犯罪行為の認識の欠如の場合故意が否定されると判断している。会計基準の誤解から生じた「虚偽記載」の認識の欠如はまさに非刑罰法規の誤解であるから、故意が否定される場合に当たる。原判決は、この判例に相反する判断をしたから破棄されるべきである。
 平成13年の企業会計基準の変更以前は、本件のような子会社を通じた親会社株売却益は、親会社の連結決算において売上から連結消去すべき対象にはなっていなかった。この企業会計基準の変更は、一般国民に対し公布される法律の改正ではなく、日本公認会計士協会の通達などによって各公認会計士において変更の事実を知ることが出来るものに過ぎない。しかも、本件決算では公認会計士により適法意見が付されている。このような状況からすれば、子会社を通じた親会社株売却益を親会社の連結決算において売上から連結消去しないことは、代表者といえども、直ちに誤った会計処理方法であったと認識できるはずがないのである。


3.最高裁判例違反(長銀刑事事件最高裁判例違反)

 長銀刑事事件最高裁判決は、有価証券報告書虚偽記載罪が成立する前提として、虚偽記載か否かの判断基準となるべき、「公正なる会計慣行」が、「明確性を有し」、「定量的かつ具体的な基準」であることが必要であると判断した。
 本件では、ライブドア株を売却した投資事業組合が連結の対象になると判断されれば、それは、ライブドア株の運用益の配当を受けたライブドアファイナンスがライブドアの子会社であることから、最終的にその運用益は、親会社であるライブドアの連結決算上自己株式の売却益として扱うべきであるという形の問題となる。
 しかし本件当時、どのような場合に「投資事業組合が連結や持分法の対象とすべき子会社又は関連会社の範囲に含まれる」のかについては、抽象的に「支配力基準・影響力基準」を適用するとされていたものの、「明確・定量的・具体的」な基準は存在していなかった。基準が明確になるのは、平成18年9月8日に企業会計基準委員会から「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」(実務対応報告書第20号)が発出されてからである。
 従って、「明確性を有し」、「定量的かつ具体的な基準」が存在しない状況で、本件について、公正なる会計慣行に反したものとして有価証券報告書虚偽記載罪の成立を認めた原判決は、上記判例に違反する。


4.法令の解釈・適用の誤り及び事実誤認(マネーライフ事件関係)

 原判決には、いわゆるマネーライフ事件について、重大な事実誤認とともに、証券取引法158条の解釈適用を誤った違法があり、これが判決の結論に影響することは明らかである。

(1)仮に「マネーライフとの株式交換比率」や「キューズ・ロイヤルとの架空取引」が虚偽事実の公表に当たり、風説の流布・偽計に当たるとしても、それだけで、当該行為は証券取引法158条には該当しない。「株取引のため」「相場変動の目的」という主観的要素との牽連性が必要だからである。
 本件では、VLMA2号の実質的支配者もエバトンの支配者も同じ宮内である。このような関係にあるVLMA2号とエバトンとの間の売買においては、「株取引のため」偽計や風説の流布などを用いる必要なない。また、エバトンへの売却価格1株5050円は、その後100分割による株価の乱高下が沈静化し、市場が完全に落ち着いた平成17年2月末時点の価格と等しい。このように、VLMA2号からエバトンへのVCJ株の売価は、100分割などによる一時的な株価の乱高下のような影響が生じることを見越し、それが消失して沈静化した状況の価格設定をし、取引を行ったものである。100分割による値動きにつけ込むことさえしなかった本件のVCJ株売却には、「株取引」や「相場変動の目的」は全く見いだせない。
 従って、本件では「株取引のため」「相場変動の目的」で風説を流布したとか、偽計を用いたとする余地はない。

(2)証券取引法158条で問題になる「虚偽」とは、投資家の判断や相場変動に一定の影響を与えるような事実について指すのであり、投資家の判断に影響を与えない些細な事実の相違などはこれに含まれない。
 本件では「株式交換比率決定の基礎に第三者機関作成の鑑定書が存在する」という点が「虚偽」とされたが、投資家としては、この事実だけでは投資判断に特別の意味など感じない。
 1つの企業にどの程度の価値があるかは、目の付け方や活用の仕方によって全く異なるのであり、4200万円で購入した企業は4200万円程度の価値しかないという前提自体が、全く条理に反し経験則に反する。企業価値は、企業価値を評価する目的によって多面的な数値で表され、誰にとっての価値を算定するかによっても異なる数値が算出されるものであり、同一の企業に対する買い手にとっての評価額と売り手にとっての評価額とは異なることは企業活動における常識と言って良い。大量生産される自動車や家電のような物についてはある程度客観的絶対的な価格があると言えるが、世の中に1つしかない非代替物の場合にはそうはいかないことを原判決は看過しているというほかない。


5.正義に反する著しい事実誤認(本件を「自社株売却」と認定することの誤り)

 原判決が正当とした一審判決の「クラサワスキームによりライブドア株式の売却益をライブドアの連結売上げに計上することは、いわば、ライブドアが新株を発行して、その払込金を売上げに計上しようとしているのと実質的に変わりなく」との認定は、原判決の認定した事実経過とも矛盾し、条理並びに経験則にも反するものであり、これは、破棄しなければ著しく正義に反する事実誤認と言うべきであり、また、この誤認が判決の結論に影響することも明らかである。

(1)本件においては、もともと、クラサワ株と交換にライブドア株を提供する、いわゆる株式交換が考えられていた。もし株式交換の相手方(=クラサワ)株主が、現金での保有を望むのであれば、株式交換後に、自ら、市場で、取得したライブドア株式を売却することによって代金額を確保すれば足りた。ところが、相手方(=クラサワ)が、ライブドア株の急落を強く懸念し、相場変動による取得金額の変動リスクを負担することを嫌い、確定金額8億円の取得に固執したために、ライブドア側において、やむを得ず、そのリスクを負担した上、いわば株式交換による買収先会社の株主に「代わって市場で売ってあげた」だけにすぎない。
 そもそも、自社株売却益を資産計上できないのは、それが基本的に資本だからである。しかし、株の売買を業とする会社が、他から頼まれて他社が保有している株を売却したような場合には、そのような問題の生じる余地がない。ライブドアファイナンスは株の売買を業としており、相手方との交渉の流れの中で、実質的には相手方が保有することとなるライブドア株を売却したに過ぎず、自身が資本として有していたものを売却したのとは異なる。その上、実際に売却を行ったのはライブドアではなく現実に存在した投資事業組合であったこと、投資事業組合についてこれを連結または持分法の対象とすべきか否かの基準は本件当時存在していなかったこと、市場での売却が当初は借株によって行われる予定であったこと等に留意すれば、自社株売却において問題とされるような資本取引性が問題となる余地はさらにないのである。
 これらの経緯、目的、方法等を総合すれば、本件の株売却を「自社株売却」ととらえるのは全く実態に反している。たまたま投資事業組合の存在を否定すれば「自社株売却」のような形として見ることができるというだけのことである。

(2)ライブドア株が1ヶ月未満の間に急激に上昇していたにもかかわらず、20万円台での高止まりを保つことができた結果、ライブドアは、買収代金8億円との差益である37億円という多額の売却差益を得ることとなった。しかし、これは、やむをえずクラサワ株主からの要請に応じて株価変動リスクをライブドア側が負った上での、たまたまの成果に過ぎず、何ら不当な利益ではない。


6.正義に反する著しい事実誤認(「会計基準適用の誤り」に関する認識の欠如)

 被告人には本件各組合が脱法目的(「会計基準の潜脱目的」)で組成されたものであることの認識がなかった。原判決を破棄しなければ著しく正義に反する事実誤認である。

(1)原判決は、会計基準の潜脱目的以外の組成目的(インサイダー取引規制ないし子会社による親会社株式の取得規制を回避する目的)の存在及びその認識をもって、本件各組合の存在を否定し、被告人に有価証券報告書虚偽記載罪の故意を認めるという過ちを犯した。
 原判決は、被告人にも「法規制等の回避の目的」の認識があったと認め得る理由として述べている部分で、「被告人は、・・・、本件各組合が投資事業組合の本来の目的とは別の目的で組成されたことを認識していたものと推認できるとしている。」、「…被告人は『各組合が、インサイダー取引規制の回避とか、監査を通りやすくするためなど、投資事業組合の本来の組成目的とは別の目的で組成されたことを認識していたものと推認できる』と言い得るのである。」と述べている。
 しかし他方、原判決は、被告人にも「会計基準の潜脱目的」(損益勘定としてライブドアの連結決算上で売上計上するという会計処理の潜脱目的)の認識があったことは全く認定していない。
 結局、原判決は①「インサイダー取引規制の回避の目的」及び②「監査を通りやすくする目的」など、会計基準の潜脱目的以外の組成目的をもって「法規制等の回避の目的」の具体的な内容として判示していると解するほかないのである。
 原判決は、「会計基準の潜脱目的」に関する被告人の認識を証拠上認定し得ないことから、「法規制等の回避の目的」の意味内容を上記①または②など「会計基準の潜脱目的以外の組成目的」まで広げて解釈することによって、一審判決の結論を維持したのである。

(2)そもそも、原判決の言う①インサイダー取引規制の回避の目的、②商法違反の回避の目的、③監査を通りやすくする目的なるものは、それ自体何ら違法な目的ではなく、こられの組成目的をもって脱法目的などと評価すること自体が誤りである。
 すなわち、ライブドアで検討されたのは、「インサイダー取引の疑いの回避の目的」であり、これは違法行為を回避するという適正な目的である。原判決は、これを「インサイダー規制の回避の目的」と言い換えて述べて、「違法目的」であるかのように不当な事実誤認をなしているのである。「商法違反の回避の目的」、「監査をとおりやすくする目的」なるものについても同様である。

(3)組合の本来の組成目的とは異なる目的で複雑な組合を介在させたことの認識があったからと言って、被告人に会計基準の潜脱目的の認識があったとは一概には言えない。たとえば、インサイダー取引規制の回避の目的や商法違反の回避の目的で、複雑なファンドを組むことはあるが、そのことの認識と本件における会計基準の潜脱目的の認識は全く別次元の問題である。

(4)このように、原判決によれば本件各組合の存在を否定する根拠となる「組成目的」は、会計基準の潜脱目的に限られるべきであるにもかかわらず、原判決は、会計基準の潜脱目的以外の組成目的にまで広く解釈するという過ちを犯し、その結果、被告人に対する本件有価証券報告書虚偽記載罪の事案においても、本件各組合の存在を否定して考え、本件有価証券報告書虚偽記載罪に関する被告人の故意を認定するという過ちを犯したものでる。上記原判決の事実誤認は、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する重大な事実誤認であることは明らかである。


7.正義に反する著しい事実誤認(「架空売上」についての認識の欠如)

 原判決が、架空売上げの連結売上げについての被告人の犯意及び共謀の根拠としている事実は、いずれもそのような間接事実が認められないか、あるいはそもそも論理的に犯意及び共謀の根拠とはなり得ない事実であるから、これらの事実をもって、被告人の犯意及び共謀を認定することはできないと言うべきである。この点においても、原判決にはこれを破棄しなければ著しく正義に反する重大な事実誤認があることが明らかである。

(1)ライブドア及びEXマーケティングのキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上げ14億7500万円について、証拠を詳細に検討すれば、被告人の故意や共謀を認めることはできないのであって、原判決には著しく正義に反する重大な事実誤認があり、この誤りが判決に影響を及ぼすものであることも明らかである。

(2)VCJのキューズ・ネットに対する架空売上げ1億0500万円についても、被告人のVCJやキューズ・ネットにおける立場や業務への関わり方、専門家である監査法人も当該売上げを架空と認定していなかった事実、そして、証拠上、原判決が犯意及び共謀の根拠認定の根拠として挙げた事実がいずれも認められないことからすれば、被告人にはVCJやキューズ・ネットに対する売上げが架空であるとの故意も共謀もないことは明らかなのであって、それにもかかわらず、被告人の共謀・故意を認定した原判決には著しく正義に反する重大な事実誤認があり、この誤りが判決の結論に影響を与えたことも明らかである。


8.正義に反する甚だしい量刑不当

 弁護人としては、既に述べた理由により、原判決は当然に破棄されるべきものと確信している。しかし、仮にその主張が受け入れられなかったとしても、以下のとおり、原判決には正義に反する甚だしい量刑不当が存することは明白であり、原判決は破棄を免れない。

(1)量刑において、最も重要なのは公平である。
 量刑因子は事例ごとに異なるが、主要な因子は定まっており、同一因子間での比較は可能である。きわめて多様な背景事情や経過を伴う殺人罪でさえ、殺された人の数が、死刑の基準とされている。まして、財産犯であれば、被害金額の多寡がきわめて重要な量刑因子であり、また金額により量刑の相場が存する。脱税犯などでは、脱税額やほ脱率が最重要な量刑因子とされ、量刑とそれらの数字とはほぼ比例関係にある。実務で築き上げられてきた量刑の相場が重視されるべきであるのは、当然である。
 もうひとつ量刑において重要なのは、量刑においても「疑わしきは被告人の利益に」の大原則が適用されるということである。証拠上一義的な認定ができない事実に基づいたり、社会的に確立しているとは言えない価値観に基づく量刑は許されるものではない。
 しかるに、本件においては、この2つの大原則が完全に踏みにじられ、その結果、被告人に対して、甚だしく不公平で不相当な量刑が言い渡されたものである。

(2)原判決も、「粉飾金額を確認して比較する限りは、本件の金額は少ないと言ってよかろう」(原判決48頁)と認めているところである。しかし、刑事事件として起訴された過去の粉飾決算事例は「(本件より)多少多い」などといったレベルではない。
 たとえば

①山一證券事件は、平成7年~9年にわたり合計 約7428億円の粉飾決算事件であったが、東京高裁は、平成13年10月25日に元社長に対して、原審を破棄して懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。

②日本債券信用銀行事件は平成10年の約1592億円の粉飾決算事件であったが、東京地方裁判所は、平成16年5月28日に、元会長に、「懲役1年4月、執行猶予3年」の判決を言い渡し、東京高等裁判所は、平成19年3月14日にこの結論を維持する判決を下した。

③カネボウ事件は平成14年の粉飾決算事件であり、粉飾額は連結純利益で約58億円、連結純資産で約753億円に上ったが、東京地方裁判所は、平成18年3月27日に、元社長に対して、「懲役2年、執行猶予3年」の判決を言い渡した。

④フットワークエクスプレス事件は、証券取引法違反(虚偽の有価証券報告書の提出)に問われた事件であるが、その粉飾金額は、経常利益で274億円、当期未処分利益で約1340億円にも上った。これについて、大阪地方裁判所は、平成14年10月8日に、元社長に対して、懲役2年、執行猶予3年の判決を言い渡した。

⑤ アイペック事件は、約80億円の粉飾決算事件であったが、東京高等裁判所は、平成15年11月18日に元社長に対して、懲役1年8月執行猶予4年の判決を言い渡した。

 仮に、本件が粉飾決算であったとしても、その総額は約53億円である。しかるに、7千数百億という、金額において、被告人の百数十倍に達する場合も含めて、すべて先例では執行猶予の判決が下されているのに、わずか53億円の、また1期限りの粉飾決算で、直ちに実刑に処するというのは、誰が見ても公平ではない。あまりにも、不公平であり、正義に反する、と言うべきである。

(3)また、本件直前の平成16年6月に導入され、翌17年4月に施行されたが課徴金制度のもと、本件よりはるかに規模の大きい粉飾決算事件がすべて刑事罰を免れていることは軽視されるべきでない。「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる」とする刑法6条の精神からも、本件において実刑を処すことは著しく正義に反する。

(4)一審判決は、粉飾金額が僅少でも、敢えて実刑に処する理由として、粉飾決算事件の中に「損失額隠ぺい型」と「成長仮装型」の2種類があり、後者は前者よりもはるかに非難可能性が大きいとの議論を展開した。原判決も、「成長仮装型の事例は未だ少ないから、一般論としてこの評価の手法が是認できるかは、慎重を要するであろう」としつつも、「このような視点からの分析、すなわち損失隠ぺい型と成長仮装型とに分けての評価、すなわち後者では粉飾金額は高額ではなくても犯行結果は大きくなるとする評価には注目すべきものがあり、本件に関しては上記説示の結論は是認できる。」とした。
 しかし、このような「成長仮装型」を理由として、犯行結果の重大性を強調して、被告人の刑事責任を重く見ることは、誤りである。
 そもそも、原判決自身が、敢えて、「成長仮装型の事例は、まだ少ないから、一般論としてこの評価の手法が是認できるかは、慎重を要するであろう。」としたことに示されているように、粉飾決算を「損失隠ぺい型」と「成長仮装型」に分類するという考え方自体が確立したものではない。「評価の手法が是認できるか」自体が疑問であるとしながら、「本件に関しては是認できる」というのは論理として破綻している。
 そして、「損失を隠蔽することにより」「成長を仮装する」ということが成り立つことに示されるように、「損失隠蔽」と「成長仮装」とは対立概念ではない。このような分類の考え方は論理的にも破綻している。

(5)会計上の重要性の判断基準に関しては、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告第17号「重要性の判断基準について」(昭和49年10 月23 日)が唯一公開された会計監査上の重要性の判断基準である。ここでは、資産総額、純資産、純利益等に対する影響額としての量的重要性と、除外事項自体の性格に基づく質的重要性が総合的に判断されるべきものであることが記載されている。また、質的重要性に関する留保事項については、架空資産や簿外債務等の未実現架空利益は、質的重要性が高い旨の指摘がなされている。
 要するに、決算書において最も重要なのは、資産総額、純資産、純利益等及び利益が既実現か未実現かである。これに比して、営業利益さらには売上高などは、相対的重要性は低いとされているのである。
 仮に、原判決の認定通り、ライブドアの平成16年6月期の決算が粉飾であったとしても、修正財務諸表を作成すると、その影響は、「経常利益」「当期純利益」には重要な影響を与えるものの、「売上高」「純資産」「総資産」には、なんら重要な影響を与えるものではないことが判明する。すなわち、粉飾の要素を排除して得られる修正後の財務指標によれば、ライブドアは、平成16年6月期において、「売上」「純資産」「総資産」において実際に成長していたのである。本件が、いわゆる粉飾決算であったとしても、それは実際に収入として入った資金について正しい計上をしなかったというにすぎない。「実現利益」を前提とした「粉飾決算」であって、いわば「実現利益型粉飾決算」というべきものであり、非難されるべき度合いは小さい。
 本件37億円のライブドア株式売却益について言及すれば、それが投資事業組合によって市場で売却され、現金決済された実現利益であることは異論がなく、問題とされているのは、それを「経常利益」とすることができず、「資本剰余金」とすべきであったという、企業会計原則の適用上の問題に過ぎないのである。
 日本の粉飾決算事件において、本件のような「実現利益型粉飾決算」に対して刑事罰が問責されたことは一度もない。

(6)以上のとおり、原判決が実刑としたのは、正義に反する甚だしい量刑不当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反することは明らかである。


9.結び

 以上のとおり、原判決は2つの最高裁判例に違反するものであり、刑事訴訟法410条1項前段により破棄を免れない。
 さらに、原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、また、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、さらに刑の量定も甚だしく不当である。いずれにおいても、その誤りは原判決を破棄しなければ著しく正義に反することが明らかである。したがって、原判決は、刑事訴訟法411条によっても、破棄されなければならない。

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