危険運転致死傷罪のことをちらっと、書きましたが、ちらっとだけ書くと、真意が伝わらないと思ったので、長めに書くことにします。


はい。飲酒運転が悪いこと、これは当然のことですし、飲酒運転での致死傷については、厳しく罰すること、これについても同意です。そもそもこれまでは、業務上過失致死傷罪しか、自動車運転での事故を裁く法律はありませんでした。それが、最近まで個別に自動車運転を裁く法律が無かったことがおかしいくらいだと思っています。


その辺はもしかしたら、業界団体の圧力があったのかもしれませんね。


ところが、多数発生してただろう、飲酒運転による痛ましい事故が今までは、無視され続け、途端に2つの事故をきっかけに、危険運転致死傷罪、自動車運転過失致死傷罪と、法律が新設されるに至りました。これ自体は良いことだと思いますが、突然にこういう動きになってきていることが気になります。


被害者の側からしますと、危険運転致死傷罪にあたる罪は死刑でもいい!というくらいになりますが、自動車運転の場合は、多くの人が加害者になる可能性が非常に高いですから、もっと両側から考える必要があると思います。


自分は酒飲んで運転しないから、大丈夫。あるいは、もしお酒飲んで運転して人をひき殺したら、死刑でもかまわない、くらいに思っている人、結構いるのではないでしょうか?


私の問題提起は二つです。


一つは、量刑がほかの罪と比べてかなり重いのではないか、ということです。


たとえば、傷害罪の上限は懲役15年です。危険運転での致傷も同様に15年です。

危険運転というのは、アルコールを飲んで酔っ払い運転をした場合以外にも、スピード超過や無理な割り込みなども該当します。まあ、確かに自動車というのは、危険な道具で、言い換えると包丁を持ってすごいスピードで道路を走っているようなものですからね。


そういう意味では、非常に正しい認識ではあるのですが、これまで長期5年以下の比較的軽い罪だったものが、有期刑では最高の長期20年以下にいきなり引き上げられたことは、ちょっと重くなりすぎかな、と思っています。


そのため、飲酒で事故をした人が、怖くなってひき逃げ(これも言語道断ですが)をして、実際はすぐに救助すれば、助かったものが死亡事故になってしまったりと本末転倒的なことも起きています。


また、格安高速バスやら、長距離トラックドライバーの過労によるスピード出しすぎで、というような事例も散見されます。


地方では、車道と歩道の区別がない、カードレールもない道路が沢山ありますが、そういったところは、死亡事故が起きやすいなどの問題を抱えています。


自動車そのものの特性からしてみれば、厳しく規制するのも当然といえば当然なのですが、あまりに厳しくしすぎるのもどうかな、というところです。上記のひき逃げの増加というような弊害も生じていますからね。


それよりもすぐにやるべきは、自動車にアルコール濃度測定装置をつけたり、スピードを120km以上でなくなる装置をつけるなり、そしてその装置を回避する仕掛けを施したら、罰するなどの、対策をすべきだと思うんですがね。


結局、これだけの厳罰化を施しても、あいかわらず飲酒運転をする人が後を絶たないのは、人間がいかに意思が弱い生き物か、というのを象徴しているわけですから。


で、もう一つは、幇助犯になる可能性が、車を運転していない人にも高くなってくるということです。

これの意識改革ができていない人は実際のところ、かなり多いのではないかと思います。


たとえば、こういうケース。

飲み会で酔っ払って前後不覚になりつつ、たまたま一緒に飲んでいた人が送っていくよ、といって、断れるかどうか。全くのしらふであれば、断れると思いますが、酔って判断力が低下していた場合、どうでしょうか?

そもそも、車で来ている人と一緒に飲むな、という話もありますが、「運転代行頼むつもりだから」と、最初は言っていたが、実際は頼まず、それで運転して死亡事故が起こったら・・・・。


また、こういうケースも考えられるでしょう。

ゴルフに一緒にいく約束をしていた人が車で迎えに来てくれることになった。実はその人は前の日深夜まで飲んでいて、飲み終わって4時間ほどしか寝てなかった。自分は別のところで飲んでいたので、その人が酒臭いのに気付かず、ゴルフ場に行く途中に、死亡事故を起こしてしまった。


同乗しているケース以外でも考えられます。

お酒を提供する店を経営していた。運転代行を頼むと言っていた車で来ていたお客さん。しこたま酔って、店を出るとき、「その辺に代行いるから、それにお願いするから」といって店を出た。そしたら、自分で運転して帰りに死亡事故を起こしてしまった。


まあ、上記はすべて、知らなかったで済ませられると考えるかもしれませんが、警察・検察はそんなに甘くはありません。逮捕されて拘留されたら、早く帰りたくなって幇助で罰金、あるいは執行猶予になるのであれば、認めちゃえ、ということになる可能性大です。



現状の危険運転致死傷罪は、適用条件が厳しく、例の福岡市の幼児3名死亡事故では、適用が見送られました。業務上過失致死傷罪の併合加重上限近くの判決が出ましたが、それで、またちょっとヒステリックに厳罰化論が噴出してきました。また、危険運転致死傷罪の適用要件を緩和しろ、との声も聞かれます。緩和すると、これまで過失と判断されていたものが、故意とみなされるようになる可能性があります。


このまま厳罰化論が行き過ぎると、本当に、法定刑の上限が死刑になってしまうかもしれません。


ちょっと冷静になって考えるのが必要だと思います。

だれでもちょっと気をゆるせば、死刑の幇助犯になってしまうような状況は異常だと思いますので・・・。


追記:飲酒運転の撲滅運動が、危険運転致死傷罪などの厳罰化に留まらず、飲酒規制運動にまで発展する可能性を秘めていると思います。現況のタバコの規制しかりですが。


重ねて言います。飲酒運転もその幇助も悪いことだし、それ自体を罪にと言うことは大事なことです。


が、むやみに厳罰化にもっていったり、その周辺を規制で固めてしまうことは、自由を制限することにもなります。


もっと、いろんな視点からの慎重な議論が必要な分野ではないかと思います。