(敬称略)

 先日、音楽ユニットeufoniusの作曲を担当されていた菊池創氏が44歳の若さで急性心不全により急逝した。
ボーカルなどを担当していたriyaさんが京アニフェス参加後、数日して
『軽率に言いますが、いつか歌えなくなってしまう前までに「ソララド(含アペンド)」&「Love Song」の全曲ライブやりたいと思っています。』
という事をツィートしていて、さして日が経たなない内に菊池氏が亡くなったと発表がでたのである。

これにはさすがに驚愕した。


 eufoniusがアニメ界へ与えた影響は大きい。

確かに知名度において比類する音楽ユニットはいくつも存在するが、eufoniusのように心に染み渡り何度も聞きたくなる楽曲を提供してくれるユニットはそれほど多くない。

現在ではアニメ作品世界を反映した歌詞を手繰り、オープニング映像と楽曲が渾然一体となって、アニメ本編の世界観へ装飾となり彩りを与える構図は一般的なものとなった。

ジャパニメーションの隆盛は巧みなアニメ演出のみならず、複雑な社会事象を反映した原作や脚本の存在、キャラクターを演じる声優陣の高い能力に加え、音楽面での前衛的な挑戦に支えられている側面もある。

これは一時期急に成熟したスマートフォンと似ている、各種デバイスがそれぞれが急速に成長した事により格段に情報端末としてのクオリティが上がった。

すでに80年代には傑出した作品が有った。といっても作品製作本数は少なかったので、おおよそ重要な作品だけを追いかける分には無理がなかった。以後だんだんとアニメの本数も分野も増えて、総覧するのは不可能となった。
ともあれ、私は古くからアニメを観続けることによって、アニメが倦まず弛まず品位を向上させ、あらゆる事象を映像化してきた経緯を体感できた。

 

そして、数多くの音楽アーティストによる功績により、アニメが想像した世界を膨らませつつ背景とする世界観を濃厚に演繹したのである。

その一翼を担ってきたのかeufoniusである。

 

 私自身は80年代までは洋楽ばかり聞いていた。アニメも見ていたが、アニメの曲を何度も繰り返して聞くようなことはしなかった。いわゆる中二病的な感覚も強かったのだろう「英語歌詞の洋楽ロックを聞いている僕ちゃんイケてるね」と思っていた。

実際、英米ロックは強かった。90年代も大御所達が傑作をリリースしてはいた。しかし、日本のアニメ音楽も爛熟して来ていた。端的にいって英米ロックよりもアニメ音楽の方に魅力を感じるようになってきていた。

萌芽を感じたのは、アニメ映画「ウインダリア」のエンディング新居昭乃氏の「美しい星」や挿入歌「約束」である。

エンディング映像に乗せて楽曲が始まると、刹那的な終わりを迎える作品映像を見ているもの情動を揺さぶった。作品自体は1986年の公開である。

後のGundam F91のEnding ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~のインパクトに比類するものがあったと書けば多くの人に通じるだろう。

ちなみに、90年代に韓国ソウルに旅行した折りに驚いたのが、どの露天商でも宮崎アニメがてんこ盛りで販売されている一方で、正規の書店などでは日本のマンガはあれどもアニメを見かけることはなかった。ソウル中心部の大型書店で唯一見つけたのが「ウインダリア」である。なぜ、90年代の韓国でウインダリアだけが許容されたのかは作品を見ると分かる。

 

 時代は下り2008年P.A Works第一作目となる「True Tears」が放送された。シリーズ構成は岡田麿里氏である。2008年と言えば、もうすでに岡田麿里の快進撃真っ最中の時期である。私は作品の背景は知らない。いわゆる美少女ゲーム(乙女ゲーム・ギャルゲーム・エロゲームなどとも言う)を原作としているが、登場するヒロインが3人という点だけを引き継いでいるだけで、ほぼオリジナル作品だとされる。このオープニング「リフレクティア」を担当したのがeufoniusである。

 一聴して「新居昭乃の再来か!!」と感じた。優しい雰囲気の歌唱に類似点を感じたのである。それもそのはずで歌い手のriyaは新居昭乃の弟子筋であるようだ(要確認)。

 菊池創追悼として白浜坂高校合唱同好会が「リフレクティア」を収録して公開した。

リフレクティア【合唱版】白浜坂高校合唱同好会

 

true tears【MAD】リフレクティア

 

 

元々、eufoniusはゲームメーカーKEYなどの美少女ゲーム由来の作品を担当することが多かったようだ。私自身は「ときめきメモリアル」や「ToHeart」で時が止まっているので詳しいことは知らない。

岡田麿里は正史においてブルーフィルム脚本を経ている事になっているが、美少女ゲーム脚本をかなり本数こなしてからアニメ界に入ってきたようだ。実のところ、アニメ演出家や脚本家で美少女ゲーム経由の人は多いようだ。アニメ業界が美少女ゲームの人材を取り尽くしてしまったので、美少女ゲーム界が冷え込んでしまっているとまで言う人もいる。

 アニメ「冴えない彼女の育てかた」(2015)で描かれているが、美少女ゲームはビジュアルに使える労力が限られているので、より一層脚本が重要である。しかも、基本的な世界観は似通っているので、特に脚本で独自色を出さなければならない。

 加えて大きくない市場相手の創作なので、本数を製作せざるを得ない。この特殊な環境ゆえに岡田は脚本家として鍛えられたとも思われる。

 True tearsで岡田は途中でメインヒロインの性格設定が変更に従い、1話まで遡ってセリフを書き換えたと言われている。脚本家としての執念を感じさせる。

 

2010年アニメ「ヨスガノソラ」が放送された。最近は話題作「推しの子」原作の衝撃展開を受けて「ヨスガノソラ」が注目されている。

私は放送後かなり経ってから観ている。

予備知識ゼロだったので、作品内容に衝撃を受けた。

「アマガミ」(2010/2012)、「セイレン」(2017)と同じくオムニバス形式である。恋愛ストーリが並行して存在している。

しかし、ヨスガノソラは他作品と比して投入されているアニメ映像の熱量が格段に違う。また、地上波放送にもかかわらず性描写が入っているのである。作中の舞台となった足利市では、ヨスガノソラを町おこしに使おうという話もあったようだが、流石に無理な話しだっただろう。

ヨスガノソラは公式見解によると「寄す処の(春日野)穹」を意味しており、作品の内実をうまく表現している。

サブタイトルのIn solitude,where we are least alone.(孤独の中で、最も孤独でない場所で。)は物語終末を暗示している。

オープニング『比翼の羽根』のボーカルもバンド演奏も作中のBGMも温かみのある音楽や演奏となっている。登場人物が自由に振る舞えるような世界観を提示するという製作者側の意図があるようだ。

この『比翼の羽根』はできるだけ大きな音量で聞いて欲しい。riyaさんがつぶやいた「いつか歌えなくなってしまう前まで」ではこの楽曲を指しているのではないだろうか。

『比翼の羽根』はアニメ映像作品と連結して世界を構成しているのもあって、ことの他情感を奮い立たせる。

アニメ史上屈指の名曲と言える。

eufoniusの起用は「True tears」を踏まえてだと思われる。というのも、「ヨスガノソラ」はアニメパロディ要素も含んでいるのだが、True teatsの人物設定や演出に似ている点があるようにも感じるのである。制作陣がTrue teatsを意識し、かつ超克した作品製作を企図した可能性は高い。「ヨスガノソラ」は美少女ゲーム由来のアニメとして最高品位の映像演出が盛り込まれており、この分野のアニメ作品としての金字塔であり一つの究極的な到達点と評することができる。 

 

 別の話になるが、「推しの子」のOP「アイドル」はアニメの神通力もあって世界を席巻している。Yoasobiの作曲担当はバンド活動を経てボーカロイド作曲家として音楽会社に見いだされた。歌い手としての限界が無い人工音声相手に作曲してきたが故に、自分の感性に従うことに重きを置いて、歌い手に対して無茶振りな作曲も厭わないようである。

私の邪推だが、この構図が菊池氏とriya氏の間にも存在したのではないかと思われる。

歌い手としての限界を追求した、いや通例だったら避けるほどの難曲を世に提示したのではなかろうかと。

 

 

 

 

Eufonius - Hiyoku no Hane [Yosuga no Sora Opening]フル
https://www.youtube.com/watch?v=f18Lo_oQ9go

 

 

eufonius「比翼の羽根」 | ヨスガノソラ | オープニング公式

【Lin ⋆ Flin】 Yosuga no Sora - OP【Cover en Español】

スペイン語? オープニング映像が自作(笑)

 

 

 

少し話が逸れるのだが、2006年「ゼーガペイン」が放送された。量子力学を土台にしたサイエンスフィクション作品であり、ロボットアクション作品である。

ガサラキ制作陣がゼーガペインを担当したようである。この作品の功績を挙げれば長くなる。

 

仔細は拙稿の「星方武侠アウトロースターとゼーガペイン〜量子力学が結ぶ8年越しのエンタングルメント」譲るし、量子力学由来のアニメ作品群やAI人格形成系?のアニメ作品群については別途論じたい。

 

 

ゼーガペインの功績を平たく言えば、高難易度のSF設定を受容する人民を広範に耕して育成することによってアニメ作品世界の幅を広げたといえる。

オープニングを担当したのがあの新居昭乃である。ゼーガペインは儚げな世界を描いている。その映像世界を音楽面で増強したのが「キミへ ムカウ ヒカリ」である。本編を最後までみてできれば、0話に相当する劇場版も見ると、オープニングの楽曲が創造した雰囲気を堪能できる。

ちなみに、ゼーガペインは2023年、作中での”リセット日”に本編の後日譚の新作続編の制作が発表されている。

劇場版のゼーガペインADPは本編の7年後に上映された。続編は17年後(放送は18年後)に放送予定ということである。
 


キミヘ ムカウ ヒカリ

 




ゼーガペインよりも半年早く「ノエイン もうひとりの君へ」が放送された。この作品は奇しくもゼーガペインと同じく量子力学をベースにしている。

赤根和樹氏はサンライズで「天空のエスカフローネ」のTV版・劇場版を監督している。

一方のノエインはサテライト製作である。

ノエインは 「ラクリマ時空界」と別の時空「シャングリラ時空界」と複数の世界が併存しており、邂逅すれば敵対勢力として戦闘が起きる状態であった。際どい環境に追い込まれた主人公の成長物語である。また、タイトル「ノエイン(ギリシャ語で認識の意)”もうひとりの君へ”」が作品の主題となっている。

ノエインもゼーガペイン同様の高難度の科学設定がなされている。

巷間ではノエインは『隠れた名作』と評されている。

ノエインはゼーガペインほどメジャー作品ではないが、映像の迫力や人物相関模様やストーリーテリングにおいて名作と評されている。

ノエインもEufoniusがオープニングを担当している。

楽曲がオープニング映像とシンクロしており、最初は曇天のカットから始まり、後に明るい風景にマッチした展開である。

後半の疾走した感じが好評価を得ているようだ。

 

奇しくも、同じ量子力学を援用したアニメ2作品での師弟対決?となった。

 

Eufonius - Idea
https://www.youtube.com/watch?v=vLI9vtUM_cI