雨上がりの散歩     2024,7,14

 土曜日のこと。

 目覚めてベランダから外を覗くと昨夜の雨が上がっていた。午前6時を少し過ぎて、ぼくは久しぶりに朝の散歩に出た。

 ぼくの住んでいるマンションの南側にある小さな公園に行くと、男性の先客がいて遊具の前に立っていた。40代くらい。彼も朝の散歩に出てきたのかな。

 ぼくは、公園の端っこにある階段を登り、丘に向かう急な坂道を歩きだした。少し息が弾む。準備運動をしないで歩き出したからかな。

 道の両側に蔓延る雑草が、連日続く暑さのせいでだいぶ萎れかけていたが、ここ2・3日降った雨で勢いを取り戻していた。

 道ばたの草たちが光っている。銀色の水滴をつけて。

 雨は2時間ほど前に止んだのだろう。水滴が足元の細い葉の上に並んでいる。1ミリにも満たない小さなものから1センチくらいの大きさのものまで…。エノコログサやメヒシバの細長い葉の上にも数えきれないくらい水滴がたまっている。

 道路と住宅をわける生垣に植えられた木々の葉の一枚一枚にも、雨の滴がついている。

 

 少し歩いていると、薄い雲の向こうから太陽の光が射してきた。帽子をかぶって歩く。

 犬の散歩をしている人と会う。みんな小さな犬だ。この日、出会ったのは、テリアと思われる犬が5匹。ダックスフントが1匹。こっちは、ちょっと切なそうに飼い主に引っ張られて歩いていた。

 

 空の上から小鳥の鳴き声がする。スズメたちが飛び回っていた。高い電線の上からはシジュウカラの鳴き声。

 驚いたのは、ヒヨドリよりも大きくてカラスより小さな鳥が2羽電線の上に止まっていて、体を大きく膨らませていたこと。尾羽を大きく広げている。扇を拡げたように…。2羽の小鳥の頭がクルリと回りながら羽の手入れをしている。

「ああ、わかった! 昨日一日中、そして今朝まで雨が降り続いていた。羽の油分が取れて水分が羽に湿り気をあたえていたのではないかしら。濡れた体をこうやって膨らませて乾かしているんじゃないか」

 これがぼくの予想。

 

 それから、桜や欅の緑に囲まれた小さな公園に出た。ここには小学校の高学年が使用するくらいの高さの鉄棒がある。少し低いのと2つ並んで。この鉄棒に水滴が列をなして並んでいた。

「雨の粒の遠足みたいだね。何か写っているかな?」

 ぼくは膝を曲げ鉄棒についた水滴と同じ高さになってそこに何が写っていないか覗いてみた。

「景色が逆さまに映っているんじゃないかな」

と思ったけれど、それは見られず白い光の塊みたいになっていた。

 

 雨の日にできる水滴といったら少年時代を思い出した。

 里芋畑の一株一株に大きな葉が育っていたが―それは、子どもの身体が丸ごと隠れるくらいあったね―、雨の上がった後、畑の横を通ると葉の上に大きな水滴ができて光っていた。ちょっと揺らすとコロコロと転がる。丸い水滴は壊れない。ちょっと葉の上で踊るようだった。

 

 今朝も散歩に出た。空は曇り空。今にも雨粒が落ちてきそうだった。40分ほどの散歩。

 歩道とつながる建物の玄関先の花壇に百日紅が植えられていて、見ごとに薄紫色の花を咲かせていた。木の高さは3mくらい。そっと手を伸ばして花びらの塊に触ってみたら、ふんわりとやさしい。花びらがこぼれそうで手を引く。