物語を読む『大造じいさんとガン』⑥ 2024,7,3ブログ

  『知り知り知り隊スーパーⅤ-1』№170(2004,3,4)号より

《はじめに》   授業中のぼくの問いを問い直す

 子どもたちの発言は鋭い。残雪たちがやってくる餌場の近くに気づかれないように小屋を作ってガンの群れを待つ大造じいさん。猟銃を構え「今か、今か!」と。だが残雪は、そこに昨日と違う様子を見つけて急角度で向きを変え、沼地の西のはしへと飛び去って行く。「ううん」とうなる大造じいさん。

 この様子を、子どもたちは、唖然とする、茫然とする大造じいさんと読む。「さすがだな、残雪」というつぶやきも。さらに、沼地の西の端でゆったりと餌を求めながらバラバラになって泳ぐガンの群れの様子を語る子も。物語の一つの場面が、子どもたちの発言によって絵のように浮かび上がる。

 さらに、続く授業の中で、大造じいさんの心の中にどんな思いが生まれているかを、それぞれが想像しながら発言している。

 さて、授業後半のぼくの発した―大造じいさんはいったい何を見ているのか?―という問いは、果たしてこれでよかったのか、わざわざ問う必要はなかったのか、今回この記録を掲載しながら、ふと考えた。子どもたちはもう十分にこの日の授業の中で、この問いに答えているのではないか。

 それでも子どもたちは、ぼくの発したある意味曖昧な問いに一心に考えてくれて、「頭の中は真っ白なんだ」「空をみている」「しかし、心の中で何か別のものを見ている」「沼地の西の方を見ているんだけど、実際は見ていなくて、見ているものが何か透き通っているような感じ」…そんな発言が返って来た。

 ぼくは、この子たちなら、恐らくこうした読みもできるのではないか―と、そう思いながら問いを発したように思う。物語に描かれた大造じいさんの姿を、より深く“見えない世界”に迫りながら想像する力だといっていい。だけどなと思う。こうした問いに無理があってはならないだろうなと。(2024,7,3記)

 

【授業場面 あらすじ】

 ぬま地に小さな小屋をつくりガンの群れがやってくるのを待つ大造じいさん。翌朝、残雪が仲間をつれてえさ場にやってくる。あと少しで猟銃の玉が届くというところで、残雪は昨日まではなかった小さな小屋に気づき、急角度でぬま地の西のはしへと飛び去って行く。大造じいさんは、広いぬま地のずっと向こうをじっとみつめたまま「ううん」とうなってしまった。

 

残雪のためにしてやられた大造じいさんの心と様子

友樹 …大造じいさんは、広いぬま地の向うをじっとみつめている。ぼうぜんとしているのです。

博之 …ぬま地をじっと見つめながら、あぜんとしている。

T  …茫然、唖然。どちらもピッタリの言葉だね。

良  …この広いぬま地の向こう―、(つまり残雪たちのいるろころは)残雪たちのすみかとなって、基地となって、また来年、また来年と続いていくように思う。

貴大 …大造じいさんは、この広いぬま地を見つめたまま、もう撃つ気力がなくなってしまった。

奏子 …わたしは、ぬま地の向こうをじっと見つめているところですが、大造じいさんはボーッとしていて、「さすがだな、残雪」そんなふうに見つめている。

裕太 …大造じいさんは、ボーッとしていて、ぬま地の向こうを見つめていて、そこにはゆったりとバラバラになってエサをとるガンの群れを見て、もうどれが残雪なのかわからないでいる。

真子 …なんか、大造じいさんの目線は、遠くを見て、未来をみつめているっていうか、また作戦のようなものを考えようとして…。大造じいさんの独特な目をしているのです。

愛詠 …貴大君が(大造じいさんの)気力がなくなっているって言ったけど、弾丸(たま)の届く距離に入っていないってことで、気力がなくなったわけじゃないと思う。

友樹 …今度の件、残雪にやられたことで、気力は確かになくなったかのように見えたとしても、大造じいさんの気力は、どんどんまたあがっていくと思う。

良  …貴大君の(大造じいさんの)気力がなくなったというのは反対。今、大造じいさんの心は、「あいつは頭がいいから、どうやったらいいか」―そんな風に考えているんじゃないか。

蒼空 …ぼくも、気力がなくなったわけじゃないと思う。このときはダメだった…そういう気持ち。

裕太 …ぼくは思うんだけど。初めて負けたみたいに負けを認めるみたいになって、そんな気持ちになって、はじめは強がっていたけど、ちょっとだけ弱気の心も生まれてきて、そんな中で「ううむ」って唸ってしまったんじゃないか。

                   ※

蒼空 …この「ううむ」ですけど、ふつうの声じゃなくて、唸っているんだと思う。

T  …思わずもれてくるようなね!

奏子 …この「ううむ」には、大造じいさんの「負けだ!」とその認める気持ちがあって、「残雪め、勝手にやってろ」って。

一浩 …せっかくタニシを五俵もまいて、だいなしになった…

貴大 …大造じいさんのこの「ううむ」って、感嘆の声で、一枚上手だなって思って、こんどは負けないぞって思ってる。

愛詠 …「さすが、残雪め!」そんなふうに唸って「ううむ。見破られたか」って思ってる。

T  …大造じいさんは「広いぬま地の向こうをじっと見つめたまま…」と書いてあるでしょ。いったい何を見ていると思いますか。

友樹 …何かをみているようなんだけど、頭の中は真っ白じゃないか。

博之 …(大造じいさんの作戦がうまくいかなかった)現実をみている。

良  …空を見ている。つけたして、自分はいったいどこでミスをしたのかって考えて、どうやってそれを克服するか考えているのです。

T  …すごいね。空を見ているようなんだけど、心は別のものを見てるっていうんだ。

奏子 …広いぬま地の向こうを見ているのだけれど、実際は見ていなくて、見ているものが何もかも透き通っているようで、夢の中の世界のようになっているんじゃないか。

真子 …実際は、ぬま地を見ているんだけど、頭の中は、残雪にやられたっていうか、負けたシーンがくり返し繰り返しでてくるの。

蒼空 …この「ううむ」だけど、大造じいさんは、かねて考えていた方法で二つともつぶされちゃう。両方とも一生懸命考えて「うまくいくぞ!」って思った方法なのに、二つとも残雪に見破られて、それでうなっているんです。

真子 …このうなってしまったってこと、もう悲鳴というか、悔しいというか、困り果てて、またまたどうしたらいいかって…。

良  …大造じいさんは、今回の方法で“会心のえみ”をもらしているでしょ。それだけいい作戦だった。それが破られて、どうやったらいいかって…。(それで、ただ唸り声を出して)考えている。

一浩 …“会心のえみ”がもれた作戦、それがダメで。次のことをどう実行しようかって。

 

ノートより

龍輝 …「ううん」―。なんとなく唸ってしまった。

真季 …大造じいさんはこのとき、ポカーンとして、一瞬時間がとまったときのようになった。

恵子 …残雪を見ている大造じいさんは、東側のぬま地のはしに立っていると思う。

あゆみ …「ううむ!やるなあ!なかなか…」って。

かおり …大造じいさんは、がっかりしながらガンの群れの方を見ていたんじゃないか。

紗希 …「ガンはどうしてかからないんだ!」と大造じいさんは思ってあぜんとしているのです。

麗  …作戦が失敗して、「またやられるなんて! はやく戦いに勝ちたい!」

千晴 …大造じいさんは、残雪のいる方をみているのかな。

麗羅 …この唸り声は、考え込むような唸り声。

万智 …あと一歩のところで、ガンが獲れなかった。ぬま地の向こうをジッと見ていた。

有紗 …さっきまでのできごとは何だったんだって、そう考えていた。