詩の授業・『石段』(渋沢均作)③        2024,6,15

《はじめに》詩を読むことの意味

 子どもたちと詩『石段』をめぐって、浮かぶこと・思うこと・考えたことなどを自由に語り合ってきました。この授業の意味はどこにあるのでしょうか。正解を求めて白黒つける学習ではありません。しかし、詩の言葉を大切にして心に浮かぶ風景を語り合っていくと、自分の中に友だちの声と響き合うものがあって、さらには心の奥底の扉がパッと開き、何だかみんなに語り出してくなる思いや発見が生まれてくる…なにものにも代えがたい時間が生まれてきます。

 この詩を読む時間は、“効率や効果”とか“特別の能力”を身につけるものとは違います。しかし、1つの詩をめぐって、味わったことのない世界をみんなで創り出し、生きている存在としての自分の中に、かけがえのない体験を刻んでいく学びです。1つの詩と出会うということ、1つの歌と出会うということ、1枚の絵とであうということ…人生にはいろいろな瞬間があります。その瞬間が何かとても愛おしくなるような、彩り豊かなものになるような学びの時間があっていいのだと思います。

 いわゆる知の世界の探検や発見にいたるワクワクするような学びも重要ですが、こうした1つの詩を生きている自己と向き合いながら、問いかけ味わうような時間もとても大切なものだと思います。

 今日のブログの中では、階段に夕日が流れ込んでくる場面の想像を楽しんだり、子どもの声の中に作者の子ども時代の懐かしい思い出の声と、いまそこで遊んでいた子どもたちとの声が重なり合って聞こえてくるというような子どもたちの読みが楽しいなと思います。(2024,6,15記)

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貴大 …『石段に腰かけて』―。さっきの老人だと思うけど、石段はきっと365段くらいあるんだと思う。

T  …貴大君には石段がすごーく長いイメージになるんだね。

愛詠 …さっきの老人がね、上までのぼっていく…。そしてふり返って腰かけて「長かったなあ」と思っているんじゃないか。

T  …ああ、そんな風にも考えられるね。

聡志 …ぼくは、ここ『石段に腰かけて/石段は長かった』と書いてあるから、すわって時間が過ぎていく、そんなイメージ。

千晴 …わたしも。すわって石段をながめている。時間が過ぎていく。そんなイメージ。

博之 …『石段は長かった』―。腰かけて、ずっと、何分かたっている。

愛詠 …わたしのイメージは、石段の真ん中あたりにすわって、登ってきた下の方を見て感動しているように思う。

貴大 …『石段に日が暮れて』だけど、神社なんかがあってね、本堂の方にどんどん光が射しこんでくるんだ。

T  …すてきなイメージだね。絵が浮かんでくる。(黒板に絵を描きながら)こうかい?

博之 …ぼくの浮かんだことはね、石段に日が暮れて…というと、どんどん薄暗くなっていく感じがする。少し不気味でね。

T  …すごいなあ! 確かに周りに森があるからグーンと暗くなっていくね。そんな読み方もできるんだろうね。

真子 …わたしは、この言葉から長い石段があって、そこに日が暮れていくと、光がさして、ちょっとずつ石段がオレンジ色に染まっていくようなイメージがする。

T  …それも絵にしよう。(チョークで絵を描く)こうかな?

真子 …そうなの! ピッタリ! わたしのイメージと一緒です!

Ⅽ全 …ワハハ!

愛詠 …『石段に雨がふり』―。石段からどんどん人が消えていく。石段だけが残っている。これを読んでいると、そんな、次第に人が消えていく姿、様子が伝わってくる。

博之 …雨の音がね、「バチ、バチ…」から少しして「ザーッ」に変わって行くんだ。

真子 …お寺や神社の柱の横についてるのあるでしょ。

T  …雨どい? かな。

真子 …そこをね、雨がピチョン、ピチョンって落ちてくるの。

貴大 …この石段を作者が見ている。雨がふって人気がなくなって作者はひとりぼっちで見つめている。

T  …いいなあ。雨の中、誰もいない石段を、見ている作者を感じているんだ。

愛詠 …だんだん日が暮れて、人気がなくなって夜に入っていく。さっき元気に遊んでいた子たちが、石段をのぼりきって、その向こうで遊んでいる…

聡志 …石段に対する思い出が作者にあるんだ。遠い昔の思い出。そうした思い出の方は、心の中にあって、消えちゃっていくこともあってもね、石段は今実存しているのです。

T  …ウーム。わかるね。聡志君の言いたいこと。いろいろな思い出、あったかのように実存していたんだけど、今、見えているのは石段だけだ…と。

友樹 …『子どもの声も残っている』と書いてあるでしょ。ぼくは、子どもの声ってね、さっきまでの子どもの声があってね、それもそうなんだけど、思い出もそこに交じり合っているんだと思う。残っているのは石段と、その石段の思い出と、それは石段に沁みついているんだと思う。

一浩 …雨降って、子どもたちはいなくなった。でも、その声は残っている。

貴大 …作者の子ども時代の声も重なっている!

T  …貴大君、すごいこと言うね。友樹君も同じように! 二つの声が重なっているというんだね。

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T  …さて、この詩は、石段がずっと繰り返されているのですが…。

良  …石段を繰り返すことで、石段がずっと重なっているイメージができている。

博之 …繰り返すと、『石段』のイメージが深まる。

一浩 …それだけ、石段の思い出がいっぱいあるんだ。

聡志 …石段の思い出がいっぱいつまっていて、その尊さみたいのが、何回も書きたくなったみたいに伝わってくる。

真子 …詩を作った人がね、大切に思っているんだ。その大好きな感じを伝えたくて…こう書いている。

貴大 …石段をアピールしてる。きっと子ども時代、すごくいいこと、いい思い出がいっぱいあって、うれしかったんだ。疲れて帰って来ても、こんな思い出があると…。

友樹 …博之君が言ったように、深まっていく。そのために強調している。

博之 …こう書くことで、石段にインパクトを与えているんだ。

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T  …作者は『石段』の詩を書くことで、自分の中にある強い思い出や感動を重ねているって、みんな言ったね。強く心を惹かれる対象として『石段』があった。

 みんなはどうですか? 

 何気ないものなんだけれど、深い思い出があるっていうか、それを見ると胸がキュンとなるものってありますか?

あゆみ …わたし、ハムスター『ハムチ』の写真を見ると、そんな気持ちになります。

T  …そうか。もう死んでしまったんだね。でもそのとき深く触れあった気持ちがよみがえるのね。

一浩 …ぼくは、広島の友だちからもらったオルゴール。

T  …蓋を開けると、パーッと仲良しの頃、遊んだ思い出がよみがえるんだね。

友樹 …ぼくは、平仮名の練習キーボードかな。テレビの映像に森が何だかしらないけれど写っていて、ぼくは平仮名のキーボードを打ってて、泣いているんだ。

裕太 …香川の野球大会のメダル。みんなでもらったメダルで、そのときの写真、みんなで撮ったんだ。

蒼空 …ぼくは、区長杯の思い出。

博之 …それも同じだけど、北海道でね、作文コンクールがあって、そのときのメダルも思い出深いよ。

聡志 …ぼくは、4年間使ってきたグローブ。

和貴 …ぼくは、優勝メダル。

T  …メダルとかでなくてもね、この詩の『石段』のように、君たちの心をとらえるものがあるかもしれないね。例えば『ジャングルジム』とか、『すべり台』とかね。あるいは家から学校まで歩いて来る『道』とかね。

 そんな心に強く迫って来るもの、あるいは心からはなれないで気になるもの…、そういうものを題材にして、今度詩をかきましょう!

 

『石段』みたいな

ぼくの わたしの 心を奪われる所 物を

題材にして 詩を書きましょう

来週書くよ

何を書くか 心のメモ帳に しまっておいて…