新任教師・カズヤ君の教室日記とぼくの感想     2024,4,30ブログ

 4月が終わりました。新任教師・カズヤ君から『週末日記⑤』が届きました。

 今回もカズヤ君とぼくとのやりとりの一部を紹介します。若い仲間が読んで元気になってくれたらいいなと思います。(小見出し、太字、記事の抜粋、編集は山﨑による)2024,4,30記

 

◆《カズヤ君の日記1》4月の日々を駆け抜けた!

 こんばんは。

 カズヤです! 25歳になりました!!

 22日(月)~26日(金)、とてもたくさんの出来事がありました。

「うちの子が他学年の○○さんから△△という言葉を言われたんだけどいじめに該当しないのか」

と、クラスの保護者からお怒り電話がありました。次の日にはその保護者が、放課後の職員室に乗り込んできました。他にも様々な保護者への電話対応を経験しました。

 学習指導員の先生とクラスの子のいざこざも起き、板挟みにもなりました(この件は学習指導員の先生が“良くない対応”をしてしまったがゆえのいざこざです)。

 郡の陸上大会に向けた練習も始まり、子どもたちと一緒に走っています。

 26日(金)には授業参観・保護者会・夜に歓迎会もあり。今は「なんとか4月を駆け抜けた!!!」というのが一番の思いです。

◆《カズヤ君の日記2》心すり減らされる感覚  保護者からの訴えに悩む

 様々な出来事から心が擦り減らされていく感覚を味わいました。その分、周りの先生方に助けていただきながら、1つずつ整理できたのかなあ。揉みに揉まれ、次から次へと追われる対応に

「ああなんだよ、くそおおお!」

 と、内心思ったこともありました。

 そんな中でも分かったことがあります。学校での子どもの姿と家庭での子どもの姿は違うということ。

保護者の方は、わが子が学校でどんな風に過ごしているのか気になっていること。保護者の行動(電話にしても、学校に突然来るにしても)はどうであれ、子どもを愛しているという事実には変わりないこと。保護者も子どものことで悩んでおり、誰かに聞いてほしいと思っていること。

 むしろ保護者の方が思い詰めている場合があるのではと思うようなことが何件かありました。

「担任だから自分がどうにかしなきゃ」っていうことではなくて、「一緒になって考えていけばいい」と思うと、保護者との電話も情報共有の場みたいな感じがして気が楽になりました。

 

ぼくからカズヤ君へ  カズヤ君のやわらかな対応、いいね!

 保護者からの訴えや電話をどうみるか? カズヤ君のやわらかで深い保護者のとらえ方がいいなと思います。難しいやりとりにも屈せず、逃げず、相手のふところに飛び込んでいくみたいに、「子どもを愛する」ことは同じだから、何か一歩を踏み出せるのではないかと、君の方から歩み寄って行った姿が伝わってきました。

 難しい保護者に対する対応は、すぐに言い返したり相手の子育てを批判したりするのではなく、また相手をクレーマーなどと決めつけずに、どこかで歩み寄り、語り合い、一緒に子育てに向かえる人として接していくことが大切だと思います。

 そうした点で、新任教師1カ月だというのにみごとな保護者のとらえ方と対応だなと思いました。それにしても、ひとつひとつの問題を受けとめる時、疲れるよね。

 そんなときは、幾人かの信頼する人に自分の抱えている思いを吐露することを大切にしてください。解答なんか求めなくたっていい、ただボソボソとつぶやくだけでいいのです。そして、書くことも! 話したり書いたりすると心の負担がだいぶ軽くなりますから。

 

◆《カズヤ君の日記3》 気になる子「ナナ」のこと

 さて様々起きた出来事の中から、今一番気になっている子のことを書こうと思います。

 登場人物はナナさん(仮名)です。私のクラスの子です。

 私が勤務する小学校では、放課後に45分間ぐらいの陸上練習の時間が設けてあります。5月中旬の大会に向けて計10回ほどの練習日があり、その中の3回目の練習の日である日の出来事です。

 ナナさんは、郡の陸上大会の選手に選ばれ、コンバインドA(80mハードル・走り高跳び)の種目に取り組んでいます。この日は80mハードルの練習でした。昨年も同じ種目で出場経験があるナナさんは、ハードルには自信があり、前回の練習でのハードリングはとても上手でした。

 この日はタイムを取ります。先生のスタートの合図の笛とともに勢いよく駆け出しました。順調のように見えましたが、ゴールした瞬間、泣き出してしまいました。1000mの種目の練習をみていた(一緒に走っていた)私はその瞬間は気づかなかったのですが、ふとゴールの奥で泣いているナナさんが視界に入りました。

(どうしたんだろう…。他の先生がナナさんのもとに駆け寄ってくれたなあ、大丈夫かなあ、ケガかなあ…)

なんて思いながら、ひとまずその先生に任せることにしました。

 練習が終わり下校の時間になりました。(放課後の特別練習をした子たち20名…山﨑)

ところがナナさんの姿がありません。他の子に聞くと、どうやら昇降口で泣いているようです。

 行ってみると先ほど対応してくださった先生と一緒にいました。

 どうしたんだろうとナナさんに聞くと、どうやらけがではないそう。でも言葉が出てこない。泣き止むまでそっとしておくことにしました。

 いつもナナさんの頑張っている姿やちょっとした話、今何が食べたい?とか気を紛らわすような話をして、なんとか泣き止み、最後はちょっと笑いながら下校していきました。

 最後までナナさんがなんで泣いているかは分かりませんでした。

 ナナさんの下校後、その先生と何があったのか話し、おそらく自分が思っている走りができていないのではということが挙げられました。昨年も同じ種目で選ばれているがゆえに「私はできる!」と思っていた。しかし、体の成長とともに体重も増え、思うような走りにつながっていないのかもしれないとのこと。

 前回の練習で「ハードリング上手だね!」と言われていたからこそもあったのでしょう。校長先生・教頭先生にも話しをして、ナナさんの性格上その可能性は高いよねと。

 下校時、おばあちゃんが迎えに来ていて少し話したのですが、「陸上練習やだな」と2回目の練習後、家庭で話していたと聞きました。ナナさんは真面目で大概のことは器用にこなせるがゆえに、理想と現実とのギャップが大きかったのかもしれません。

翌日26日(金)、いつもと同じ時間に登校してきたナナさんを見てホッとしました。

「昨日なんで泣いていたの?」というのは聞かずに、

「ナナさん今日も元気そうだね!いい表情してるじゃん」

 と、声をかけました。

 ナナさんはきょとんとした表情で私を見つめ、言葉は返ってきませんでしたが何か照れくさそうな笑みを浮かべました。ナナさんとのキャッチボールはそれでいいんです。

 ナナさんとの距離感、新学期が始まってから正直うまくつかめずにいました。友達と一緒の時は、たくさん言葉は出てくるけど私とナの1対1になると、なかなか会話が続かないことがしばしば…。

 どんな性格の子か、あまりつかめていませんでした。

 でも頑張り屋さんでけっこう我慢しているタイプなのかもしれないと感じました。思い詰めていることが多いのかなと。もしかしたら友達関係、家庭でのこと、悩みを抱えているのかもしれません。でもまだ言える関係性にないナナさんと私。

 さっきの照れくさそうな笑みは、最初の一歩を踏み出せた証拠だったのかもしれません。

 

 26日(金)は授業参観だったので、ナナさんのお母さんが来てくれていました。保護者会終わりに話す機会があり、昨日の陸上 練習での出来事を伝えました。

 お母さん曰く、陸上練習が始まってからナナさんの食欲がないそう。その前までは普段と変わらない様子だったことから、何か思いを抱えているんだろうとのこと。

 ただ、お母さんも悩んでいました。何を聞いても「うるさい。お母さんには関係ない。」と不貞腐れた態度で部屋にこもることが増えたとのこと。お母さんとしても、どうしたらいいかわからないとのことでした。

 ナナさんに対して私ができることとして、まずは見守ることかなあ。話はできても、なかなか本音を打ち明けるには時間がかかると思います。なので少しずつ、時間をかけていきたいと思います。

「どんなことでも話していいんだよ」っていうのを少しずつ感じてもらえるように、会話のキャッチボールを絶やさないことが第 一だと感じています。

 その中でふと、ちょっとしたことでもこぼれた時、一歩距離が縮まったと言えるのでしょう。その瞬間を逃さないよう、でもこちらから距離を詰めすぎないよう、待ってみたいと思います。

 

 この3連休は、昨日は疲れもありのんびりと何もしない1日を過ごしました。今日は田植えがあり、朝から夕方まで田んぼにいました。明日は学校に行って、やるべきことをやります!

 3日学校に行けば4連休が待っています。子どもと同じく、連休は楽しみです^^    カズヤ

 

◆ぼくからカズヤ君へ ナナさんのこと

「ウーン…」と思いながら読みました。

 全体を通し、ナナさんに対する君のスタンスの取り方が一番彼女にあっているかなと思いました。

 6年生になったいま、ナイーブに自己の身体と心に向かい合わなくてはならない状態にあるかなと思います。思春期の入口というか「自分をもう一つの眼差しで見る」ナナさんがいて、そのもう1人のナナさんが心の内部で語りかけてきているのかもしれません。

 君のいうように5年生までの身体の軽さや動きと微妙に違う自分の身体の感覚にもどかしさをかんじているのかもしれません。

 よい記録や結果をだしたくても出せない自分への苛立ちは、内で抱えるしかありません。そこに土足で踏み込まれたら反抗的に言い返すしかないですから。(食べることをセーブしているのかもね…)

 記録の向上は、他者から見ても自分から見ても嬉しいし“輝き”ですが、そうはならない時期もあること、しかし、ある時期を越えて再び記録が伸びる時があることなど、中学生のお姉さん選手などの例を知ることも一つのヒントになるかもしれませんね。

 また、体の変化を愛おしみながら、そこを受け入れつつ新たな挑戦をすることの素晴らしさなど、今は難しいでしょうが感じ取ってくれたらいいなと思います。これは一方的なぼくの感想ですが。

 直接的な対話で難しい時は、挑戦する子たち全員に、簡単な競技日記(練習日記…数行書けるくらいの)をつけてみるのもどうかと思いました。

 そこに、自分の身体の動きとその日の練習の中で感じた気持ちなどをメモ風に書き入れて、それに対して君からのメッセージを送るみたいな「対話ノート」かな。

 ナナさんとだけすると他の子たちも気になりナナさんも気にすると思うので、競技にかかわる君のクラスの子たち全員に…と思った訳ですが…。

 

◆頂いたお手紙全体から感じたこと…

 今日、届いたカズヤ君の日記を読みながら、人間としての大きな可能性と未来への輝きを感じました。そして、もう1つ。それは地に足のついた確かな教師人生が始まっていることへの感動です。

 君が、どんな教師になって行くか、とても楽しみです。

 

 追伸:休日に田植えをする君がカッコいいなと思います。ぼくも農家でしたからね。その時の田植えはすべて手植えでした。中学生までは母を助けてけっこう仕事をしました。水田に緑の苗が植えられ風になびく風景はいいね。